乳房星(たらちねぼし)・ドラマノベル版

【九月の雨】

時は、日本時間8月25日の午後3時過ぎのことであった。

JR尾鷲駅の待合室に、優香のハトコの荻楚英彦(おぎそひでひこ・39歳)がベンチに座って腰を休めていた。

この日は、たつろうさんの実家のリフォーム工事が終了したので、一家がもとの家に帰る予定である。

(ザー、ザー、ザー、ザー、ザー…)

この日は、冷たい秋雨が降りしきっている。

英彦は、ひっきりなしに腕時計を見つめていた。

午後3時半過ぎに、たつろうさんの実家の家族たちが乗っているトヨタエスティマのジャンボタクシーが到着した。

タクシーから降りた優香は、待合室で待っている英彦に声をかけた。

「英彦お待たせ…行こうか。」

英彦は、優香と一緒にジャンボタクシーに乗り込んだあと、たつろうさんの実家がある地区へ向かった。

夕方4時頃に、一家が乗っているジャンボタクシーがリフォームしたての真新しい家に到着した。

英彦と一家は、身の回り品が入っているカバンを持ってタクシーから降りた。

新しい家は、トイレ・浴室・洗面所・台所を新調して、部屋もきれいな作りに替えた。

家電製品と食器類と調理器具はすべて新品に替えた。

家具については、食器棚だけ新しいのに替えた。

他はクローゼットがあるので、タンス類すべては処分した。

二組の兄夫婦の家出とシングルきょうだいが極刑になることが確定したこととみつろう優香夫婦の2人の子供たちがスポーツ合宿にずっと居つづけるから永久に帰る見込みがないと言うことで部屋数を大きく減らした。

部屋は、六郎と政子の寝室とみつろう優香夫婦の部屋と和子の部屋と英彦の部屋と8畳の部屋の5つある。

8畳の部屋は、英彦とゆりこが結婚して子供ができた時に使う部屋なのでセジョウされている。

夕方5時過ぎのことであった。

英彦が使う8畳の部屋にて…

英彦がクローゼットに衣類を収納している時に、優香みつろう夫婦が入ってきた。

「英彦。」
「優香さん。」
「お部屋作りの途中だけど、ちょっとかまんかなぁ~」
「なんやねん…オレ、しんどいねん。」

英彦がつらそうな声で言うたので、優香はヘラヘラした顔で『ごめんね。』と言うた。

「ごめんね…」
「なんやオドレ!!」
「怒んないでよぅ~」
「怒りたくもなるよ!!」

優香のそばにいるみつろうは、過度にやさしい声で英彦に言うた。

「英彦、優香は英彦が急な出向でたいへんだったねって言うているだけなんだよ。」
「ほやけん、なんじゃあ言いたいんぞ!!」
「だから、出向先がここと決まったけんうちから通いなさいと言うているのだよぉ~」
「そんなんで怒っとんじゃないわ!!和子のクソアホンダラがオレの右足をけとばした!!そのことで怒っとんや!!」

それを聞いたみつろうはとぼけた口調で『ごめんね。』と言うた。

「ああ、ごめんね…本人は直接ものが言えんけん兄であるオレが代わりにあやまるよ…和子は縁談がこんけんイライラしているだけなんだよ。」
「ホンマかよ!?」

優香は、過度にやさしい声で英彦に言うた。

「大丈夫よぉ~和子さんは白馬の王子さまの迎えが来る時期が少し遅れているだけなのよ…もうひとガマンすれば迎えが来るから大丈夫よ。」
「ホンマかよ!?」
「家族みんなが信じていれば、その日は来るわよ…もういいでしょ…もうすぐ晩ごはんできるからキゲン直してね。」

優香みつろう夫婦から過度にやさしく言われた英彦は、しぶちんの表情で和子を許すと言うた。

晩ごはん時のことであった。

大広間に2・5世帯の家族と英彦がいた。

テーブルの上には、コーチン(とりなべ)が置かれている。

政子六郎夫婦と優香みつろう夫婦は、過度にやさしい表情で英彦に接している。

英彦は、やりにくい気持ちをガマンして無理にほほえんでいる。

和子は、その間にごはんを残して大広間から出て行った。

政子六郎夫婦は、家のリフォーム代を和子の結婚がめでたく成立したら払うと大工さんに伝えていたけど、ずるずると未払いの状態がつづいて行くことなどおかまいなしであった。
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