大好きだから、キミの前では笑っていたい。
「口、ついてるし」
学校帰り。
ふたりが別れる駅構内で寄り道をすることにした私たちは、百貨店にあるクレープ屋になんとなく立ち寄ってみた。
私はイチゴにチョコソースのかかったクレープを、彼はバナナにチョコソースのかけられたクレープをそれぞれ注文して、近くの共用ベンチに腰かけた。
甘い甘いクレープを口に運んで幸せな気持ちに浸っていたら、伸びてきた男の子の長い指。
冒頭のセリフを呆れ笑いの含んだ声で言われ、人差し指の背でそっと拭われた。
「甘っ」
それを口に含んだ彼は、頬を緩ませてどこか幸せそうな笑みで非難の声を上げた。
声に見合わないその表情に私が笑うと、彼がクレープを口元に近づけてくる。
「なに?」
「一口あげるから、俺にも一口ちょうだい」
ニカッと笑ったその表情は、いたずらっ子の笑みそのもの。前髪から覗く漆黒の瞳は、まっすぐに私だけを見つめていた。