あなたには何が見える?



彼女を見つけてから気づかれないようにゆっくり近づいた、彼女はソファーの近くにいて、やはり車椅子の彼女の位置から窓の外は見えていないようだ。





「何を見てるんだ?」





「キャッ!」ビクッ





「あぁ、ごめん驚かせた?」





「びっくりしました、アナタは…昨日の?」





「昨日はどうも、俺は日高優斗、君は?」





「こんにちは、私は…山本小夜っていいます」





「小夜さん…綺麗な名前だね」





「あなたも優しそうな名前です」





「ありがとう、書いて字の通りだけどな、それで、今日は何か見えたのかい?」





「…やっぱり、なにもみえません」





「景色が見たかったら外に出てみたらいいんじゃないか?一人が大変だったら俺でよければ車椅子くらい押せるけど?」





「やっぱり優しいじゃないですか、見ず知らずの私に対してそこまで言ってくれるなんて」フフフッ






そう言って笑う彼女の笑顔は本当に美しくて、見る人すべてを虜にしてしまいそうなくらいだ。





「この階では年も近いし、同じ入院仲間だからな」





「日高さんも入院されてるんですか?」





「昨日からしてる、まぁ検査入院だから結果次第でどうなるかなって感じ」





「そうだったんですか…良い結果が出るといいですね」





「そうなんだよな、山本さんはどのくらい入院してるの?」





「梅雨が明けてからなので、1ヶ月くらいですかね」





「そっか、山本さんの方が大変だ、こんな誰も居ない所で一人だもんな…それにあんまり自由に動けないみたいだし…」










「あ、この車椅子ですか?これは違うんです。私は足が悪い訳じゃなくて……













………目が見えないんです。」




少し言葉を躊躇ったが、すました顔のまま彼女は平然と自分の状況を語ってくれた。





「…そ、そうだったの?ごめん俺!てっきり足が悪いんだと思ってて、「何を見てるんだ」なんて無責任なことを…本当にごめん」





明らかに動揺を隠せない自分がいた。




俺が身体の不自由だと思っていた彼女は本当は盲目の世界にいたのだ、それを聞いてまだお互いの事を知らない彼女にこれまでの自分の発言の浅はかさを思い知らされる。





「いいんですいいんです、そんなに謝らないでください。勘違いしてる日高さんが面白くてついからかってしまっただけですから」





「だから初めて会った時なにも教えてくれなかったのか」





「そうです、出来心でした。だから日高さんは謝らなくていいんですよ?」フフフッ





「だとしたら山本さんの方が優しいな、見ず知らずの俺に自分のこと話してくれて」





「うーん、そうですね、何も知らないからこそ話せたのかもしれません」





「今度はどういう意味なのか教えてくれるか?」





「私のことを知っている人だったら日高さんみたいに自然に接してはくれませんから…皆どこか腫れ物に触れるような接し方になるので、それが嫌で…」






寂しげな表情をする彼女の目は見えていないというが、何処か遠くを見ているように感じた。




彼女が求めているのが気を許せる関係なら、同じ階に入院している俺はそうあるべきだと思う。






「そっか、じゃあ俺は入院仲間として気軽に接していくよ」





「それが一番ありがたいです」





緊張が解けたのか、彼女の表情は最初に見た時よりもさらに美人に見えた。





この窓からの景色をもう彼女は見ることはできないのだろうか…。





「山本さん、もしよかったら連絡先交換しない?」





「え、いいんですか?私…メールもLIENもできませんよ?」





「それでも電話くらいならできるかなって、病室もお互い個室だから話してても大丈夫だし、と思って、もちろん山本さんがよければだけど」






別に彼女が美人だからというわけではない、いや、まったくその気がないかといえば少しは嘘になるかもしれないけど、





ただ彼女の悲しそうな顔が頭から離れなくて…。




俺なんかに自分の事を話してくれたってことは少なからず彼女が気を許せる友人?のような関係でいられる人を求めているってことだ。





俺なんかが力になれるならもちろん力になりたい。






「日高さんがいいなら喜んで、うれしいです!」





そういって俺と彼女は連絡先を交換することになった。




きっと彼女は寂しかったのだろう、暗闇の世界ので一人静かに病室での時間を過ごす、俺には到底耐えられそうにない。




それだけでも彼女が強い心の持ち主であると直ぐにわかる。





そんな彼女の心の支え、とまでは言えなくとも気晴らし位には成れたらと俺は思った。






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