超人気アイドルは、無自覚女子を溺愛中。



空野さんの真剣な横顔を見つめること数分。
台本をパタンと閉じて、カウンターに置いた。


「よし、始めようか。じゃあ、まず冒頭のシーンから」


立ち上がりながらそう言うと、席を避けて広くなったフロアの真ん中に立つ。



「『シンデレラ、遅いわよ。まだ馬小屋掃除もあるんだから』」

「『ここ、まだ埃たまってるわよ。こんなこともできないだなんて、呆れちゃう』」

「『あらあなたたちは綺麗なドレスに着替えなきゃだめじゃない。シンデレラはほっといて早く着替えてらっしゃい』」



驚きで空野さんを見て固まる。


「シンデレラ、つぎセリフ」



わたしが固まってしまうのも仕方ないと思う。

だって空野さんがいきなり3役するんだもん。お姉さまふたりと義母を。


女性の役なのに違和感なく、しかも演じわける空野さんに衝撃を受けた。

台本も少ししか見ていないのに、セリフも完璧。
動きまでつけていたのだから、もう言葉も出ない。




「あ、えっと……お、お母さま、わたしも舞踏会に行ってはだめ、ですか……」

「ゆきちゃん、上手くやろうとしなくていいんだよ。ゆきちゃんのシンデレラになればいいんだから」




< 108 / 400 >

この作品をシェア

pagetop