超人気アイドルは、無自覚女子を溺愛中。
空野さんの真剣な横顔を見つめること数分。
台本をパタンと閉じて、カウンターに置いた。
「よし、始めようか。じゃあ、まず冒頭のシーンから」
立ち上がりながらそう言うと、席を避けて広くなったフロアの真ん中に立つ。
「『シンデレラ、遅いわよ。まだ馬小屋掃除もあるんだから』」
「『ここ、まだ埃たまってるわよ。こんなこともできないだなんて、呆れちゃう』」
「『あらあなたたちは綺麗なドレスに着替えなきゃだめじゃない。シンデレラはほっといて早く着替えてらっしゃい』」
驚きで空野さんを見て固まる。
「シンデレラ、つぎセリフ」
わたしが固まってしまうのも仕方ないと思う。
だって空野さんがいきなり3役するんだもん。お姉さまふたりと義母を。
女性の役なのに違和感なく、しかも演じわける空野さんに衝撃を受けた。
台本も少ししか見ていないのに、セリフも完璧。
動きまでつけていたのだから、もう言葉も出ない。
「あ、えっと……お、お母さま、わたしも舞踏会に行ってはだめ、ですか……」
「ゆきちゃん、上手くやろうとしなくていいんだよ。ゆきちゃんのシンデレラになればいいんだから」