超人気アイドルは、無自覚女子を溺愛中。
暗いし焦っているしで、帽子もメガネもマスクも、顔を隠すものはなにも身に着けていなかった。
だからすぐに藍原くんは気づいた。
おれが来たことに驚いているみたいで、目を丸くして口が半開きになっている。
けど、そんなことは気にせずにまっすぐにゆきちゃんの目の前に行く。
そして同じように驚いているゆきちゃんを抱き締めた。
「悪いけど、雪乃はおれのだから」
藍原くんを睨む。
ゆきちゃんは一瞬体をビクッとさせたけど、すぐにおれの服をぎゅっと掴んで受け入れてくれた。
そのことに少しホッとした自分がいる。
「……は?どうゆうこと?」
表情を険しくさせて、おれを睨み返してくる藍原くん。
いちおうおれ、年上だし芸能界でも先輩なんだけど。
「そのまんまの意味。雪乃はおれのなの」
そう言って見せつけるように抱き締める力を強めた。
大人げない。
余裕ない。
かっこ悪い。
それでもいいと思う。
それでも、とられたくないから。