紅の華_
「あ…のね、」
あの男に会ったことを話そうと思った時に脳裏によぎるあの顔。
そしてあの時の事───。
「む…」
「む?」
「む、虫の大軍がいたの!それで、逃げてきて…」
…言えない。
あの男の事は私の問題だし、理緒に迷惑をかける訳には……
「…そっか。」
また、だ。
また私は、誰かにこんな顔をさせてしまった。
「じゃあ私は帰るけど、芽依、本当に何かあったらなら言ってよね〜?」
明らかな愛想笑い。
それでもまだ言えない。言わない。
「ごめんね……」
理緒の姿が見えなくなるくらいまで見送り、見えなくなってそう呟いた。