世界でただ一人のヒーラーは生殺与奪を握ってます。
 クロエは教会からでたアリシアを追った。アリシアは教会入口の横でもたれ掛かって空を見上げていた。金糸の髪が風に揺られている。綺麗な髪だ。
クロエはアリシアの隣りに同じように壁にもたれかかった。
「・・・アリシアは強いな。私は正直に言うとこの村の惨状を見て恐怖した。街で勇者だともてはやされていたのに・・・無惨な人の死を受け止めることが出来なかったんだ」
クロエは夜空を見上げながら告白した。情けない自分のことを。
「仕方ないことです、冒険者はこれだけの人の死に直面することは滅多にありませんから」
「アリシアはこんなにも酷い惨状を目にしたことがあるの?」
アリシアは考え込む。そして思い出すように語りはじめる。
「二年前の大戦の時、私は近衛騎士団にいました。魔法使い同士の激しい闘いでした。生きたまま焼かれて、風の刃で四肢は引き裂かれ、水で溺れて、土に押しつぶされる・・・私はその中で力の限り走り回り治療をして、向かってくる敵はこの剣で切り殺しました」
アリシアはずっと夜空を見上げていた。
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