世界でただ一人のヒーラーは生殺与奪を握ってます。
愛馬の姿は凛々しくて美しい。かなりの距離を走ったはずなのに傷は一つも目に付かない。以前よりも毛づやはいいくらいだ。アリシアに治療してもらったのだろう。魔法を動物にも惜しみなく使うことができる優しい心が残っていると思うとエルザは嬉しくなった。

戦争終結の後、エルザとアリシアは騎士団を辞めた。父親の死が一番の理由。それと、アリシアの環境の変化。聖女と讃えていたドラグニール国民はまるで戦犯のようにアリシアを集中攻撃した。

聖女様、息子が帰って来ません。優しい子だったんです。アリシアのドレスにもたれかかり、息子を返せと懇願する母親。

通りを歩けば心無い人が落ちている石を拾いアリシアに投げつける。隣人を助けたのになぜ、うちの子は助けなかった。暴言と暴力と憎しみが混在していた。

「・・・ごめんなさい、助けることができませんでした。」
謝る必要が何処にある。殺したのは敵国の軍人であり、戦犯を挙げるなら戦争を始めた国王だろう。
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