有 料 彼 氏


「やばそうじゃない?」

「大丈夫だと思うけど……」


あたしに向かって小さく首をかしげ、さわりたくないのかな、でも気にしてるよね、とわかりやすく表情に出す彼女。


恐る恐る手に持つと、分厚さのわりに軽くて拍子抜けした。


「それ、昨日はなかったよね?」


顔を顰めたのは朋実。本を投げ捨てようとしたのがあたし。口を開いたのは──瑠々子。


「なかったけど……ほかのところから、出したんじゃないかな」

「埃被ってたんじゃないの?」

「棚から出して床に置いて、棚をはたいたら埃が落ちた……とか」


それで本はしまい忘れたってこと?朋実がたずねる。


1冊だけ?あたしが眉を寄せる。


瑠々子に難癖つけたかったわけではない。ただ、すべての恐怖を払拭したかっただけだ。


「うーん」


朋実が声をあげた。こういう、考えているときに沈黙をしない彼女がすきだ。

< 7 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop