天使なんかじゃない!年下男子の甘い誘惑
ため息をこぼしたところで、更衣室に師範の声が聞こえてきた。
「千里ちゃーーん、光太の相手してもらっていいかのぅ?」
「ええ、いいわよ!」
千里(センリ)とは私の名前。
まるで結婚まではるか遠いと言われてるような名前は、残念で仕方ない。
白い道着に着替えた私は、黒帯をキュッと巻いて、長い髪をひとつに縛って目の前の長身の男を見上げた。
この『道場の君』の師範の孫・光太(コウタ)。
年は30歳前後だったかな。
小さな顔に、キリッとした眉。
潤んだ二重の大きな瞳と高過ぎない鼻筋はどことなく誰かを連想させるけど、今は置いておこう。
結構イケメンな彼とは、もう何度か手合わせをしている。
「今日は負けねぇよ!」
「口だけじゃないと良いんだけど?」
光太くんの意気込みを軽く煽る。
両者とも黒帯を締め直して構えると、ヘルメットを被るのは試合のルール。
面白がって集まってきた訓練生のうち1人が審判を務める。
「勝負始め」の言葉で始まった。