天使なんかじゃない!年下男子の甘い誘惑
「へぇ――先輩、結構強いんだ―――?」
道場の隅から聞こえた声に、私は驚いた。
気配を見せずそこにいたのは、会社でしつこく言い寄ってくる子犬。
「君嶋⋯⋯。なんでここにいるのよ」
中性的な顔立ちで、天使とも見える子犬が、こんな汗臭い道場にいるなんて驚きしかない。
スリムなデニムと革ジャンを着た君嶋は、意外にもオシャレ。
でも無垢な彼の雰囲気とは真逆だ。
綺麗に微笑みを見せるだけで、彼は問いには何も答えなかった。
そこで、寝転がっていた光太君と師範がその存在に気付く。
「おぉ圭太かぁ。ここに来るなんて珍しいのぅ」
「俺がスマホ家に忘れたから呼んだんだ」
ヘルメットを脇に抱えた光太くんが寄っていくと、「忘れるなよ」「ありがとな」と、スマホを受け渡して親しげに会話する二人のイケメン。
私は気付いた。
「もしかして兄弟? ていうと君嶋も空手やってたり――」
「あぁ、圭太は―――⋯⋯もがっ」
光太くんが快く答えようとしたところ、何故か子犬がその口を手で塞いだ。
訝しげにそれを見ていると、不自然すぎるくらい整った笑顔が道着の私に向けられる。
全身を舐め回すような、まとわりつくような執拗な視線。
なぜか身体がブルブルっと震え上がりそうになる。
「何?」
思わず怪訝な口調で返した。