夏のせいだよ
番外編
帰り道
「んふふっ!ふっふふ〜〜ん!」
「うるせぇ」
初めて、俺がこいつに、好き、と言ったことで、
面白いくらい上機嫌になったこいつ。
「おい、」
「ん?なぁに?」
丸い、くるんとした目で俺を見つめる。
たったそれだけで、トクン、と胸がなるくらいには、お前のこと好きだよ。
もう二度と言わねーけど。
「伊吹」
「…え?」
「伊吹に、昨日会ったのかよ」
一瞬きょとんとして、それからふわっと笑う。
「嘘だよ」
「っ、は?」
「ヤキモチくらい焼いてくれるかなーって
これで焼いてくれなかったら、別れようとすら思ってたよ」
ふふ、と綺麗に笑うお前に、段々腹が立つ。
その白い腕を掴んで、こちらに引き寄せる。
驚いて、目を丸くさせたお前に
少し笑って、
「俺のこと、あんま舐めんなよ」
少女漫画に出てきそうな、歯の浮くようなセリフを言いながら、
その華奢な背中に腕を回す。
トクン、トクンと、お互いの心臓の音が、やけに大きくて、
でも、心地いい。
それでも空気を読まずに、ミンミンとなく蝉。
これだから、夏は嫌いなんだ。