溺愛は蜜夜に始まる～御曹司と仮初め情欲婚～

隣のテーブルで食事をしていた女の子たちの会話が耳に届いた。
梨乃は侑斗という名前にピクリと反応し、スプーンを持つ手を止めた。

「彼女、沢渡外務大臣の秘書でしょう？　どうしてわざわざ昨日今日と続けて侑斗さんに会いに来たんだろうね」
「並んで歩いてるのを見たけど美男美女でお似合い。侑斗さんも照れてるのかそっけなくてそれもまた格好いいんだよねー」

声高に話す女の子たちをちらりと見れば、秘書室の女の子たちだ。
取締役たちのサポートをしていて侑斗と接する機会も多い。

「ちょっと梨乃、あの子たちいったいなに言ってるの？　まさか侑斗さん早速の浮気？」

顔色を変えた千紗が梨乃に迫る。

「ち、違う違う。あの、いろいろあるのよ……いろいろ」

侑斗が今日村野を呼び出しているのは梨乃も知っている。
それは昨日侑斗が宣言した通り、一睡もせず作り上げた資料を村野に叩きつけるためだ。

「侑斗さんが呼び出したらしいけど、よっぽど村野さんに会いたかったのよ。仕事で知り合って愛情が生まれるなんて素敵よね」

女の子たちのやけに甲高い声があたりに響く。
わざとそうしているのは明らかだ。