溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
千紗はまだ納得できないとばかりにぶつぶつ言いながら視線を手元のオムライスに戻した。
梨乃はやれやれと肩をすくめた。
しばらくすると秘書室の女の子たちが食事を終え席を立った。
去り際に向けられた鋭い視線をやり過ごした後、梨乃は椅子の背にもたれホッと息を吐き出した。
せっかくのランチだというのに気を遣って仕方がなかった。

「千紗に気を遣わせちゃったね、ごめん。だけど侑斗さんの相手が私みたいな地味で目立たない従業員だと気に入らないのもわかるし」
「は? なに言ってるのよ。どっちかというと侑斗さんに梨乃はもったいないのに、みんなそれをわかってないんだから。おまけにあの大臣秘書? 私も見たけど腹黒そうで気に入らない」
「大臣の秘書になるくらいだし、仕事はできるらしいよ。それに美人で羨ましい」

梨乃は言葉を選びながら慎重に話した。
大物政治家が絡む結婚にはほかに有利な縁談が持ちあがれば破談になる可能性もあり、侑斗は外部に情報が漏れないよう慎重に交渉をすすめている。
白石ホテルの信用にも関わるだけに、梨乃も簡単に話せないのだ。

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