溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
「ふうん。でも少なくとも彼女のほうは侑斗さんを気に入ってるように見えたけどな」
「え?」
「午前中経営企画室で打ち合わせがあって、実はそこでふたりを見かけたんだよね。ほかにも大臣の秘書らしい男性がいたけど、彼女は侑斗さんの隣でうれしそうな顔をして離れないの。無駄なボディタッチも多くて馴れ馴れしいし、遠目から見ても気分が悪かった」
「そ、そうだったの……」

吐き出すように話す千紗の勢いに気おされ、梨乃は口ごもる。

「ほんと図々しい。それに大臣の秘書ってそんなに偉いの? 侑斗さんだって梨乃の気持ちを考えれば担当を降りるとか考えればいいのに」

よっぽど村野が気に入らないのかひと息でそう言ってデザートのコーヒーゼリーもあっという間に完食してしまった。

「で? 昨夜はそのことで侑斗さんに言い訳されて謝られて、ついでに梨乃が好きだ愛してるなんて言ってごまかされて寝かせてもらえなかったのよね」

千紗はようやく落ち着き、グラスに残っていた水を飲み干し梨乃をからかった。

「それは……ちゃんと寝たし、好きとか愛してるとか……」

千紗の探るような目から逃げるように梨乃はうつむいた。
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