溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
梨乃の額にかかる髪をそっと梳き、安心させるように何度も頭を撫でる。

「肩の打撲がひどいそうだが、脳にも異常はないし骨折もしていない。……無事でよかった」

ホッとしたように息を吐き出した侑斗の声も震えていて、梨乃は閉じていた目をゆっくりと開いた。

「侑斗さん……」

梨乃の手を自分の口元に寄せ、眉を寄せている侑斗の苦しげな顔。

「あ、あの……」

翔矢もいない今夜、侑斗がいなければひとりぼっちで不安と恐怖の中過ごさなければならなかった。
侑斗の手の温かさが梨乃の鼓動を徐々に鎮めていく。

「あの、ありがとうございます。侑斗さんには関係ないのに、わざわざ来てもらって」

梨乃のかすれた声に、侑斗は眉を寄せ「いや、いい。気にするな」とつぶやいた。

「この間マンションに強盗が入ったときもついていてくれたし。迷惑ばかりですよね……。本当に、ごめんなさい」

梨乃はベッドの中からほんの少し頭を動かし、礼を述べた。
点滴に鎮痛剤が入っているのか、体の痛みが少し和らいでいる。
おかげで吐気もおさまり事件への恐怖も小さくなった。
梨乃はホッとしたが。

「だからあのとき、俺は言ったんだ」

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