溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
それは28歳になった今も変わらず、田舎暮らしを始めた両親に代わって翔矢の世話もしている。

「あ……姉さん、これなんだけど」

食事の手を休め、翔矢はためらいがちに一枚の用紙を梨乃に差し出した。

「予備校の冬季講習の申し込み。思ったよりも費用がかかるから不参加でもいいんだけど」
「冬季講習?」
「そう。年明けの本番に向けての特別講習」
 
翔矢から受け取った用紙に目を通しながら、梨乃は目を見開いた。

「た、たしかに……」

続けて、「高いぞ、これは」と言いそうになるのをぐっと我慢する。
通常の予備校の授業料にも正直四苦八苦しているが、合宿だの特別講習だの、別途用意しなければならない金額はバカにならない。

「ま、まあ、仕方がないわよね。医学部合格のためには今は勉強しなきゃ。大丈夫、夏のボーナスを残してあるから払っておくね。さ、早く食べよう、遅れるよ」

梨乃は乾いた声で笑い、箸を手に取った。
生姜焼きを口にしながらも視線は冬季講習の案内をちらり。
やはり気になるが、翔矢を安心させるように食事を続けた。
公立の進学校に通っていて成績もトップクラスの翔矢は医学部を目指している。
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