溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
とっさにそう考えた梨乃は、はっきり否定できないまま曖昧な笑みを浮かべた。
小野はそれに敏感に反応した。
「え、折原さん、やっぱり侑斗さんとは」
「えっと、急ぎますので」
梨乃はこれ以上小野や同僚たちから突っ込まれても困ると、慌てて資料を手にした。
「しばらく来客室にこもります。お先に」
「え、折原さんっ」
いそいそとその場をあとにする梨乃の背を、同僚たちが興味津々な目で見送っていた。
その後も梨乃は来客との打ち合わせを終えても来客室で仕事を続けていた。
危惧していた通り、従業員の間で侑斗との関係が噂になっている。
ふたりでラーメンを食べに行ったあの日、わざわざホテルのロビーを抜けて出ていくふたりの姿を目撃した従業員は多く、あっという間に広がったようだ。
それにしても。
『経営企画の折原さん、白石家には興味ありませんって顔をしていたくせに、いつの間に侑斗さんに取り入ったんだろう。図々しい』
写真を拡散させた経理部の女性が給湯室で声高に話しているのを聞いたとき、梨乃は侑斗の人気と注目の高さを甘くみていたと痛感した。