溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
面倒なことになったなとため息を吐きながら、梨乃が婚約者の振りをするお礼として侑斗が翔矢の大学の学費まで負担すると言っているのも無理はないような気がした。
もちろん梨乃にそこまで面倒をみてもらうつもりはないのだが、侑斗はこの面倒な展開を予想していたのだろう。
今後小野以外にもふたりの関係を聞いてくる従業員はいるはずでどう答えるのがベストなのかわからない。
事実を伝えて否定するわけにはいかず、かといって職場でも婚約者の振りをするのは違うような気がするのだ。
それに、たとえカモフラージュだとはいえ梨乃は侑斗と同居している。
この先その事実が明るみに出た場合どうごまかせばいいのだろうと、梨乃は頭を抱えた。
ひとまず今夜にでも侑斗と相談しようと決め、気持ちを切り替えた。
その後無理矢理仕事に集中していると、あっという間に終業時刻を迎えた。
そろそろ席に戻ろうと椅子の上で大きく背を伸ばしたとき、手元のスマホが着信を告げた。
見ると、小野の名前が表示されている。

「そろそろ戻ってこいって電話だろうな」

梨乃は渋々スマホを手に取った。

「お疲れ様。そろそろ戻るから」
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