強引な無気力男子と女王子
 悠理は限度ってものを知らなさすぎる。
 これじゃあ、いつまで私の心臓が持つかわからない。
 一人で百面相していると、後ろから誰かに声をかけられた。
 「ねえねえ柳井さん」
 「・・・何かな?」
 赤くなった顔をなんとか冷まし、王子様の笑みを貼り付けて答える。
 そこには、5人の女の子が立っていた。
 なんの用だろうか。
 「ダンボール捨てるためのゴミ袋が足りなくて。倉庫からゴミ袋取ってきてもらっていいかな?」
 「え・・・別に良いけど」
 5人もいるんだから自分たちで行けば?と言いそうになったけど、素直に受け入れた。
 ただでさえ悠理のことで女子の中に敵ができているのに、これ以上余計な反感を買いたくない。
 「ありがとう!」
 「・・・いいよ、これくらい」
 一瞬、5人が意地の悪そうに笑った気がした。
 このとき、もっと不思議に思うべきだったんだ。

 ―――ゴ、ゴ、ゴ。
 教室の扉より鈍くて硬い音を立てながら、私は倉庫の扉を開けた。
 職員室に鍵を取りに行ったんだけど、もう職員室に鍵は置いてなかった。
 おそらく、他のクラスの生徒が持っているんだろう。
 倉庫の中に一歩足を踏み入れる。
 何気にここの倉庫、初めて入るかもしれない。
 中は窓が小さいせいで入ってくる光の量が少なく、薄暗い。
 倉庫か・・・。
 嫌なことを思い出してしまった。
 合宿のとき、倉庫で秋谷に襲われかけたんだよね。
 知らないうちに倉庫のことが苦手になっていたのかもしれない。
 倉庫恐怖症って、なんだそれ。
 そんな恐怖症持ってるのって世界で私くらいじゃないかな?
 なんてね。
 くだらないことを考えて、気を紛らわす。
 こういうのは、早く目的のものを見つけて早く教室に戻るのが一番だろう。
 ゴミ袋を探すため、私はぐるりと倉庫内を見回した。
 ・・・あれ?
 そこで、違和感を感じる。
 「体育倉庫・・・?」
 倉庫の中には陸上部が使うようなハードルやバトン、サッカー部のサッカーボールなどが所狭しと並べられている。
 普通、こんなところにゴミ袋なんてあるのかな?
 それに、あの5人の女の子たちも考えてみればおかしい。
 いくら、名前を覚えるのが苦手な私でも、クラスメイトの女子5の顔も名前もわからないなんてあり得るのかな?
 ・・・まさか。
 急いで入り口に近づいたとき。
 ―――ガチャン。
 無情にも、私の目の前で倉庫の扉の鍵がしめられてしまった。
< 103 / 107 >

この作品をシェア

pagetop