強引な無気力男子と女王子
 ・・・遅かったか。
 「意外と簡単だったね~」
 「実は頭悪いんじゃないの?」
 「きゃはは!言えてる~」
 鉄の板一枚を挟んだ向こう側からははしゃいだ楽しそうな声が聞こえてくる。
 「どうして閉じ込めるのかな?出してくれると嬉しいんだけど」
 なるべく、相手の神経を逆なでしないようにゆっくり落ち着いて話しかける。
 「え~、ヤダ」
 「どうして出してあげないといけないの?」
 「脱出する方法くらい自分で考えたらどう?」
 「頭のいい柳井さんなら簡単だよね~(笑)」
 でも、一向に扉が開く様子はない。
 この子たちの目的は何なんだろう。
 「アンタが悪いんだからね」
 私が悪い?
 やっぱり、悠理関連なのかな。
 まあ、きっとそうなんだろう。
 それくらいしか、敵を作ることをした覚えはない。
 「そうだよ!」
 「百華ちゃんを差し置いて、瀬戸くんと付き合うから!」
 「でも、上手くいって良かったね」
 「百華に喜んでもらえるかな~」
 奥江さん?
 奥江さんが、こうすることを指示したっていうの?
 5人の声と、足音は段々遠のいていってしまった。
 何か違和感がある。
 まだそんなに奥江さんに詳しいわけじゃないんだけど。
 奥江さんなら、こんなことせずに自分で私に文句を言ってきそうなんだよね。
 う~ん。
 とりあえず、ここから出る方法を考えないと。
 この倉庫は校舎から少し離れたところにあるし、今はみんな文化祭の後片付けにいそしんでるからここの人通りは大分少ない。
 遅い時間に用務員が見回りに来るまで人は通らないんじゃないかな。
 というか、用務員さんが来てくれないと本当にまずい。
 嫌なこともあったし、いちはやくこの倉庫からは出ていきたい。
 「あ、そっか。スマホ」
 日葵か悠理に連絡して、迎えに来てもらえばいいじゃん。
 私って、天才かもしれない。
 ごそごそとジャージのポケットをあさって、私は再び絶望した。
 スマホ、教室だ・・・。
 そういえば、スクールバッグに入れたまんまにしてたんだっけ。
 前言撤回。
 私は天才ではなかった。
 「・・・ふざけてる場合じゃないよなあ」
 目の前にそびえ立つ鉄の重たい扉を見て、私は「はぁ」を息を吐いた。
 連絡も取れないし、この扉を破壊するのは非現実的すぎる。
 大人しく用務員さんを待つしかないのかな。
 来てくれるといいんだけど。
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