強引な無気力男子と女王子
 奥江さんは少しだけ顔を歪めて静かにそう言った。
 「正直、あんなに焦ってる悠理初めてみた。『真紘がどこにもいないんだけど!ここに来てない!?』って」
 「悠理が・・・」
 私もそんなに焦っている悠理は想像できない。
 「私が知らないって答えたらそのまま悠理はどこかに行っちゃったんだけど。そしたら、私の取り巻きの女子がさ、ニヤニヤ笑ってんの」
 その取り巻きの女子っていうのは私をここに閉じ込めた子たちのことだろう。
 「だから、その子達に『なにか知ってるの?』って問い詰めたら驚いた表情で柳井さんを閉じ込めたことを白状して。何驚いてんのって感じだよね。私に気に入られようとしてバッカじゃないの」
 吐き捨てるように奥江さんは言い切った。
 「そんなコソコソした方法でアンタに勝っても私はなんにも嬉しくないの。アンタには、アンタの口から『負けました』って言わせてやるくらいに負かしてやらないと意味ないし」
 やっぱり、奥江さんじゃなかった。
 「ちょっと、何百華にだけ喋らせてんの。アンタもなんか言いなさいよ。百華だけじゃない、かっこ悪くなってんの」
 「ええ!?」
 2つの大きな瞳に、キッと睨まれる。
 その目には敵意はあっても、害意はない。
 「・・・私は、奥江さんが羨ましかった」
 ぽつり。
 小さな声だったけれど、静かな倉庫内にはよく通った。
 「女の子って感じの容姿で。いつも自身に満ち溢れていて。悠理にはこんな子がお似合いなんじゃないかって考えたこともあった」
 「・・・・・・」
 奥江さんは、何も言わずにただ私を見つめている。
 「でも、やっぱりそれでも。悠理の隣に立つのは私だよ」
 「・・・バッカじゃないの、本当に」
 一言だけ、奥江さんはつぶやく。
 「言っとくけど、私は諦めないから。略奪だってなんだって良い。悠理に百華のほうが良いって気づかせて見せるから」
 奥江さんは、くるっと私に背中を向けた。
 そしてそのまま歩き出す。
 「・・・百華の周りの子が迷惑かけたのに関しては、悪かったわね」
 「え・・・」
 それだけ言って、奥江さんは校舎の方へ戻っていってしまった。
 ・・・謝った、よね?
 あの奥江さんが・・・?
 信じられない・・・。
 って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
 私も教室に戻ろう。
 そう思って、倉庫の扉を締めたとき・・・。
 「―――真紘!」
 「わっ!」
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