強引な無気力男子と女王子
第三章

初めてのお仕事

 来た、ついに来た‥‥‥。
 いつかは来ると思ってたよ。
 そう、こういうのは諦めが肝心。
 でも、でもなあああああ。
 「真紘、何一人で百面相してるの」
 日葵が尋ねてくる。
 いつもの私なら「意外。日葵、百面相なんて言葉、知ってたんだ」と、日葵を茶化すところなんだけど。
 今の私にはそんなことをする気力も残ってない。
 「いや、ついに来たんだよ‥‥‥」
 「だから何が来たの?」
 不思議そうな顔をして、日葵は私が持っているスマホを覗き込む。
 いや、人のスマホ勝手に見ないでよ。
 「なになに?『今日、真紘にとっての初めての撮影があるからマンションに来てね』っだって?おおー!!モデルとしての初仕事!?」
 「ちょっと、日葵、声大きい!」
 周りの視線が一気にこちらに向く。
 「あ、ごめんごめん」
 日葵は軽く言って笑った。
 「気をつけてよね」
 日葵以外誰にも言ってないんだから!
 もしバレたらまた女子に騒がれる。
 キッと軽めに日葵を睨む。
 「なんでそんなに真紘は落ち込んでるの?」
 「いや別に落ち込んでるわけじゃないけど‥‥‥。もしこれがバレたらまた女子に騒がれるなあって思って」
 「当たり前だよー!」
 はあ、気が重くなる。
 思わず溜め息をつく。
 「まあ、行くしかないんじゃない?」
 「そらそうなんだけどさあ‥‥‥」
 「頑張れ!真紘!ファイト一発!」
 ‥‥‥なんじゃそりゃ。

 「おじゃましまーす‥‥‥」
 そろーりそろーり、抜き足差し足で中に入る。
 本当は気を使わなくてもいいんだろうけど、やっぱり静かに歩いてしまう。
 ‥‥‥何げに私、この前から今日までこのマンションに来てないんだよね。
 余計緊張する。
 カラカラカラ、とドアを開く。
 「お、来たか真紘!」
 まず一番はじめに迎えてくれたのは龍羽の笑顔だ。
 呼び捨てなのは龍羽に「難波さんなんて何か気持ち悪りぃから、龍羽で呼べよ」って言われたからね。
 人懐っこい龍羽の笑顔に少し緊張が解れる。
 「こんにちは」
 「なんで今日まで来なかったんだ?撮影入ってない日もここに来て遊んでもいいんだぞ?」
 「いやー‥‥‥。あはは。まあ、いろんな部活の助っ人に入ってて」
 これは半分ホント。
 私は決まった部活には入ってないんだけど、まあ色々な所に助っ人を頼まれている。
 最近はバレーとバスケ、それに柔道の団体戦の試合の助っ人に入ってたからな‥‥‥。
 いやー忙しかった。
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