強引な無気力男子と女王子
「‥‥‥で、まあそれだけだよ」
全て話し終えると、日葵の顔は青ざめていて、涙を貯めて私を見ていた。
「あーー!!!泣かないでよ、だから言いたくなかったの!!」
「だって、だってぇぇぇええ!」
ついに泣き出した。
「ま、真紘〜!離れてごべんねえぇぇ!」
「何言ってるのか、全然わからないんだけど」
泣きじゃくる日葵に困り果てていたとき。
ガチャ、と部屋のドアが開いて、駿樹さんが入ってきた。
「‥‥‥柳井、お前、何日葵のこと泣かせてるんだ?」
駿樹さんは泣いている日葵を見て、低い声で私に詰め寄る。
「誤解誤解!私は悪くないんだってば!」
事態が更にややこしくなる!
「あのね、駿樹、実は‥‥‥」
日葵は駿樹さんに事情を説明しだした。
説明が終わると、日葵は私に向き直る。
「真紘、誰にやられたの?」
「教室で、私に絡みに来たやつだよ」
「えーと、秋谷くんかな?」
そんな名前なんだ。
私は人の名前を覚えるのが苦手で、喋りにくる女子の名前をギリ覚えているぐらい。
そんな私が普段話しかけてもこない男子の名前を覚えているわけもない。
「ふうん、秋谷、ね‥‥‥」
駿樹さんはそう言うとスマホを取り出して何処かに電話をかけ始める。
「もしもし?俺だけど。一年C組の秋谷ってやつなんだけど。そうそうソイツ。ソイツ、停学処分にしといて。じゃ、切るわ」
呆気にとられる私と日葵を尻目に駿樹さんは電話を切ってしまった。
「駿樹、今のってもしかして‥‥‥」
「ああ、俺の爺さん」
駿樹さんのお爺さんは実は私達が通ってる高校の理事長。
そんな理事長に「停学にして」って頼んだら‥‥‥。
「やりすぎだよ」
「は?」
停学なんて、そこまで大事にすることじゃない。
私はもう平気だし。
そう思って抗議したのに、駿樹さんは私に「何言ってるんだ?」とでも言うような視線を向けてくる。
もしかして、私のこと心配してくれてるんじゃ‥‥‥。
「日葵が泣いたんだぞ。その原因を作ったやつを放っておくわけがないだろ」
あ、はい。
わかってたことだ。
なんて言ったって私の目の前にいるのは日葵を溺愛しているのだから。
‥‥‥ちょっとズレてるけど。
駿樹さんに苦笑いしていると、コンコン、と部屋の扉がノックされた。
誰だろう?
「私、出るね!」
「ありがとう」