ONLY YOU~過ちの授かり婚~
母の死後。
証拠を隠滅するかのように宿の跡地には巨大なダムが建設され、父の悪事は水の底に沈んでしまった。

宿の近くには蛍の街で有名な場所もあった。
俺は父に一度その街に連れて行かれ、蛍が放流される儀式を見ていた。

儚い天然の光であるが、蛍の光は俺を魅了した。

父と出かけたのはそれが一度だけ。

ふと母の遺品を整理していると宿での生活が綴られた黒い皮張りの日記帳が出て来た。

母の流麗な文字で綴られた日記。
その中身に愕然とした。

母は父や大物政治家たちの愚行を全て事細かく書き記していた。
週刊誌のゴシップ記事を書く記者たちが喜びそうなショッキングな内容。

父に従順に仕えていた母。
でも、それは仮の姿で、母は父を憎んでいた。

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