ONLY YOU~過ちの授かり婚~
「蒲田支店で二年窓口テラーとして勤務、今は本店の法人営業部のRM担当だったな」

「はい」

「まさか…敦司君、愛人の子を頭取に据える気か?」

「・・・叔父上ももう年だ。かと言って私が頭取に座るのは次の選挙までの話。私が帰国したのは政界に行く為だ。
『帝和』の立て直しに戻ったワケではありません」

「・・・」

「私の言いたいコトは頭のいい君なら、理解出来るだろ?」

銀行は上下関係に厳しい業界。伊集院敦司元頭取が言っても、他の役員たちが反発するだろうに。

「まぁ、詳しい話はソファに座って話をしよう、芝田」

伊集院敦司元頭取は俺をソファに座らせた。


「今の法人営業部の仕事はどうだ?」

「取引先の窓口として、様々な会社の部署を訪問し預金や融資と言った通常の銀行の業務に加え、不動産、年金、証券代行と遣り甲斐のある仕事だと思っています」

「君の担当は主に薬品会社や病院、医療関連会社だったな・・・」

「はい」

「頭取の仕事も遣り甲斐あるぞ」

現頭取の渋い顔を一瞥する。

俺は戸惑いながらも、復帰した伊集院敦司頭取の秘書を務めながら、頭取職を引き継いだ。

そして、彼と養子縁組して、伊集院の姓となり、伊集院一族の仲間入りを果たした。
多分、敦司さんが居なければ、伊集院家の見方は変わっていなかった。


でも、伊集院家の憎むキモチは昔と変わっていない。
父に出逢わなければ、母の人生もこんな人生じゃなかったはずだから。




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