あなただけのチアになりたくて……
「行ってらっしゃい! 頑張ってきてね!」
「むこうで会おうな?」
「うん、頑張って応援しちゃうから!」
わたしは彼らを乗せたバスが学校を出発するのを見送った。
「中村先輩、うちらも準備しないと、遅れちゃいます」
「うん! そうだったね。迎えに来てくれてありがとう!」
わたしは後輩の子と部室の並ぶ校舎に走って行った。
『光代を甲子園に連れて行きたい』
わたし、中村光代のお隣に住む、遠藤亮平。
同い年のわたしたちは幼なじみというより、高校まで一緒という腐れ縁とも言われていたし、表向きはそう言っていた。
でも、本当は違う……。
亮平は小さい頃からお父さんと一緒に野球をやっていた。わたしもそんな二人を見ていたから、隣の家のわたしも二人に混じってキャッチボールをした記憶がある。
そんな亮平が中学で軟式野球部に入った。
中3の夏、甲子園のテレビ中継に食い入るように見ていた亮平におやつを持っていった時、彼は独り言のように言ったんだよ。
「光代を甲子園に連れて行きたい」
「それ、本気で言ってるの?」
「本気。だから、高校に入ったら硬式やるんだ」
彼の志望校を聞いたとき、わたしの心も揺れた。
まだ進路が決まり切っていない頃だったから、わたしも亮平と同じ高校を志望校に変更した。
周りには内緒で一生懸命に勉強して同じ高校に進学したこと、表向きでは腐れ縁と言ってはいたけれど、また亮平を近くで見ていられる。内心ではとても嬉しかったよ。
中学までの軟式と、高校からの硬式ではやっぱり勝手が違うと言っていたね。
仮入部をした帰り道、「やっぱり野球やるの?」と聞いたわたしに亮平はこう即答したんだ。
「だって、約束したじゃんか」
「うん……、そうだったよね……」
正直びっくりした。純粋にそのために道を選んでくれたの?
亮平の気持ちがそこまで真面目なものだと知ったわたしは、自分に何ができるかを必死で考えた。
中学までのわたしは、正直運動音痴と言われるくらいのレベルでしかなかった。
でも、本入部の日、わたしは思い切ってある部室の扉を叩いた。
「素人ですけど、応援したい人がいるんです。入部させてください! お願いします!」
「ふふふっ。大丈夫よ、その気持が一番大事だから」
チアリーディング部の部長さんと顧問の先生は、そんなわたしを歓迎してくれた。
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