悔しい心音に望む
◇
軽やかを意識して階段をのぼる足音は、私の。
屋上に繋がる階段の途中。
用がある。
とても大事な御用。
「こんにちは」
足を止めて、できるだけ笑顔で。
見上げた先には怪訝な表情の、男。
「また来たの」
「許可が必要だなんて聞いてないもの」
同意を求めるように首を傾げると、確かに、と小さな声が落ちてきた。
「ね、隣いい?」
「それこそ許可なんて要るの?」
嫌味っぽく笑うの、癖なのかしら。
と不思議に思ったけれど彼の手元を見て気づく。
ああなるほど。
読書中だったの。
でも拒絶なんて投げられてないから、さっきよりずっと軽やかに笑顔に、階段を、たんっ、と踏み出した。
「今日も推理小説?」
「どうかな」
「じゃあ官能小説読んでるんだあ」
「きみの思考回路は小学生なのかな」
わざと挑戦的に。
あざとく見えないように巫山戯て、隣に座り込む。
あー、今日は髪巻いてくればよかったなあ、だってふわっと香り漂わせること、できるじゃん。そーゆーの、男は弱いんでしょ。
如何にもって感じで。