悔しい心音に望む






軽やかを意識して階段をのぼる足音は、私の。


屋上に繋がる階段の途中。


用がある。


とても大事な御用。




「こんにちは」




足を止めて、できるだけ笑顔で。


見上げた先には怪訝な表情の、男。




「また来たの」


「許可が必要だなんて聞いてないもの」




同意を求めるように首を傾げると、確かに、と小さな声が落ちてきた。




「ね、隣いい?」


「それこそ許可なんて要るの?」




嫌味っぽく笑うの、癖なのかしら。


と不思議に思ったけれど彼の手元を見て気づく。


ああなるほど。


読書中だったの。


でも拒絶なんて投げられてないから、さっきよりずっと軽やかに笑顔に、階段を、たんっ、と踏み出した。




「今日も推理小説?」


「どうかな」


「じゃあ官能小説読んでるんだあ」


「きみの思考回路は小学生なのかな」




わざと挑戦的に。


あざとく見えないように巫山戯て、隣に座り込む。


あー、今日は髪巻いてくればよかったなあ、だってふわっと香り漂わせること、できるじゃん。そーゆーの、男は弱いんでしょ。


如何にもって感じで。







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