君は麦わら帽子が似合わない。
*
「重い」
「重くない!……はず!」
「重い」
女子に向かい言いにくいはずの言葉を、きっぱり二回言い切った司くん。そうは言うものの、見た目より言葉より力強い勢いでペダルを漕ぎ進めている。クリアホワイトの車体に伸びている長袖の腕が、ハンドルを握りしめている様子は、なんともちぐはぐで感想が出がたい。見たことないものを見るつもりで司くんを無理に連れてきたわけだけど、いざ目の当たりにすると私自身が一番混乱した。
「司くんって自転車漕げるんだね」
「振り落とされたいならそう言いなよ」
「まさか!うそうそ、がんばって!」
応援しながらサドルの裏をギュッと掴むと、司くんは急にスピードを上げたため、背中が後ろに取り残されそうになった。本当に振り落とされたら堪らないので、肩に触れようかと思ったけど戸惑ってしまう。だって、近くで見られる司くんの後ろ姿は、教室で見る時とは違うリアルな立体感を抱いてしまい手が出せない。まごついているうちに、彼がブレーキを握ったため、今度は前のめりになった。おでこが彼の肩甲骨に激突する。