王子に嫌われたい!
・・・・こいつは、何を言ってる?
私は呆然自失になりながら、口を開いた。だって、初めて聞いたんだもの・・・
「好きって・・・誰が?」
「俺が」
「誰を?」
「サクラを」
「・・・・・初耳なんですけど・・・」
「え?嘘!俺、何時も言ってたけど!?」
「え?いつ?」
「いつも」
そう言われ、私は考える・・・・
第一、好きだなんて言われた記憶が、無い・・・・な、い?
求婚の時だって『結婚してくれ』ってなだけで『好きです』なんて一言も言われてないんだから。
「・・・記憶に、無いんだけど・・・・」
「えっ!?本気で言ってる?」
「言ってる」
頷くと、アリオスはがくりと両膝を付いて項垂れた。
打ちひしがれる彼にリズは容赦ないとどめを刺す。
「彼女には遠回しに言っても伝わりませんよ」
「遠回しに言ってたの?」
思わずリズに聞き返すと、彼女は呆れたように頷いた。
「このヘタレ王子は、これまで女性に振られたことが無いので本気になったサーラ様には、怖くてまともに告白できなかったのですよ」
この顔だもんね。モテまくりだろうことは、容易に想像できるし。
でも、振られた事がないなんて、嫌味だわ・・・
「意を決して求婚したのですが、瞬殺。あの落ち込みようときたら・・・鬱陶しい事この上なかったものです」
「・・・え?落ち込んだの?毎日しつこいくらい求婚大安売りしてたのに?」
鋼の神経を持っているのかと思ってたのに、気にしていたんだ・・・・意外だわ・・・
「それは、私がなぜ振られたのかをサーラ様に直接お聞きし、王子個人を嫌ってはいないという事をお伝えしたからですわ」
「・・・・いや、個人ですけど。嫌なのは」
私の一言に、アリオスはこの世の終わりのような顔で私を見上げた。
なんかその顔を見たら、ちょっと・・・というか、罪悪感が沸いてくるんだけど・・・
絆されてはまずいと、私は芽生え始めた気持ちを追い払うかのように頭を振った。
だってまだ、彼の言ってる事を信用してないし。
そんな彼は一度、何かを考えるように下を向いたかと思うと、片膝をつき姿勢を正した。
そして私の手を取り、これまでに見たことのない『真面目』な顔を私に向けてきた。
「サクラ、改めて申し込みます。貴女が好きです。私と結婚してください」
その凛々しい顔にグラッとはくるけど・・・・・・
「・・・・・・お断りします」
アリオスが今までになく真剣に・・・これまでが軽すぎた様な気がするんだよね・・・求婚してきたから、私も真剣な顔で返した。
彼は一瞬、悲しそうに顔を歪めたけど、私の手を握ったまま立ち上がり憂いのある笑みを浮かべた。
「わかった。でも、俺は諦めないから」
あぁ・・その顔もグラッとくるわ・・・やばいっ!
でも、そうそう簡単に私の意思は揺るがない。
「・・・多分、私は変わらないと思うよ。私の望みは、この城を出て自立する事だもん」
「城を、出る?」
驚きに目を見開く王子に、私は初めて自分が思い描く未来予想図を簡単に語った。
「待って!じゃあ、サクラは俺じゃない男と結婚して家庭を築くってこと!?」
・・・・なんか一気に飛躍してるけど・・・・
「まぁ、将来的にはそうなる可能性もあるのかな?」
私がそう答えると、王子は正にこの世の終わりの様な顔をし、非常に残念な表情へと変化していった。どのように変わっていったかは・・・本人の人権を尊重し控えさせて頂きます。
そんな王子の様子を見かね助け舟を出したのはリズだった。
「サーラ様、恐らくその未来予想図は叶わないものと思われます」
「え?何で!?」
「先ほども言いましたでしょう?貴女の重要性を」
「・・・・・・はっ!そうだった!私、狙われてるんだった!」
私にとっては、忘れてしまいたい現実を突きつけられてしまう。
名前云々で騒いでたら、ついついうっかり忘れてたわ・・・・
そんな私を、こいつ馬鹿じゃないの?ってな目で見るリズ。えぇえぇ、危機感なくてすみませんね!
「サーラ様は顔だけではなく、そのオツムも真っ平らで機能していないのですね」
厭味ったらしい溜息と一緒に呟かれた一言に、悔しいけどぐうの音も出ない。
思わず地団駄を踏み、リズを睨み付けた。
「兎に角、町で働くことはできません。貴女がどうしても早死にしたいというのであれば、止めはしませんが」
「うぐっ・・・・」
痛いとこを突かれ口を噤む私とは反対に、アリオスはいつにもましてキラキラを倍増させながらリズに尊敬のまなざしを向けていた。
次第に遠のいていく自立への道。
項垂れる私にリズは「別に自立への道は一つではないでしょう」と、呆れ顔を前面に出しながらも、相変わらず馬鹿な子を見るような眼で私を見る。
その視線が本当に、色んな意味で悲しい・・・リズの言う事が正論であればあるほどにね。
確かに道は一つではない。この城内での下働きとか、色々仕事はあるはずだ。だから・・・・ほかの道が結婚とか、言わないよね?
「取り敢えず、働くのは城内にしていただきます。王子の世話係という事で。で、個人的にはお友達から始めてください」
「え?世話係!?下働きじゃなくて?」
「お友達?恋人じゃなくて!?」
私と王子がそれぞれの反応を返す中、リズは本当に面倒くさそうに私らを睥睨するように、見た。
背後にはブリザードが見えた気がしたのは・・・多分、幻ではないと思う。
だって、確実に室内の温度が下がったものっ!
「私にしてみれば二人の関係なんてどーでもいいんですよ。面倒くさい。ただ、私を含め国民が戦争に巻き込まれ大変な思いをするのが嫌なのです。わかりました?!」
リズさん、いつも以上に怖いんですけど・・・
そんな思いを飲み込み、有無を言わせぬ言葉の強さと冷たい眼差しに、私たちはただただ頷くしかない。
「だったらいつまでもグダグダ我侭言わない。王子は国の為に働きなさい。サーラ様も働きたいのであれば、ただの穀潰しになり果てる前に己の存在価値を示しなさい!」
「「はいっ!!」」
私たち二人は背筋を伸ばし、勢いよく返事を返した。
誰が偉い人なのか、わからないくらい混沌としてきた・・・
だけれど私の本能が告げる。リズには逆らっちゃいけないよ・・・と。
そんなこんなで、全てリズが仕切り収めてしまった。
あれだけ悩んでいた私は一体、何だったのか・・・と思ってしまうけど。
でも、彼が私の力を目的に求婚してきたのではない事が分かっただけでも、私は嬉しかった。
この関係がこれからどう進むのかはわからないけれど、取り敢えずお友達から始める事にした私とアリオス。
私の望まない方向へと進まない事を祈りつつ、今までの延長線上とはいえ、自分の居場所を確保できた事にほっと胸を撫で下ろした。
そして、それから数日後だった。
実は、リズはリゾレットという名のアリオスの腹違いの妹で、この国の最強の一人と謳われるほどの魔法使いであるという事を知ったのは・・・
私は呆然自失になりながら、口を開いた。だって、初めて聞いたんだもの・・・
「好きって・・・誰が?」
「俺が」
「誰を?」
「サクラを」
「・・・・・初耳なんですけど・・・」
「え?嘘!俺、何時も言ってたけど!?」
「え?いつ?」
「いつも」
そう言われ、私は考える・・・・
第一、好きだなんて言われた記憶が、無い・・・・な、い?
求婚の時だって『結婚してくれ』ってなだけで『好きです』なんて一言も言われてないんだから。
「・・・記憶に、無いんだけど・・・・」
「えっ!?本気で言ってる?」
「言ってる」
頷くと、アリオスはがくりと両膝を付いて項垂れた。
打ちひしがれる彼にリズは容赦ないとどめを刺す。
「彼女には遠回しに言っても伝わりませんよ」
「遠回しに言ってたの?」
思わずリズに聞き返すと、彼女は呆れたように頷いた。
「このヘタレ王子は、これまで女性に振られたことが無いので本気になったサーラ様には、怖くてまともに告白できなかったのですよ」
この顔だもんね。モテまくりだろうことは、容易に想像できるし。
でも、振られた事がないなんて、嫌味だわ・・・
「意を決して求婚したのですが、瞬殺。あの落ち込みようときたら・・・鬱陶しい事この上なかったものです」
「・・・え?落ち込んだの?毎日しつこいくらい求婚大安売りしてたのに?」
鋼の神経を持っているのかと思ってたのに、気にしていたんだ・・・・意外だわ・・・
「それは、私がなぜ振られたのかをサーラ様に直接お聞きし、王子個人を嫌ってはいないという事をお伝えしたからですわ」
「・・・・いや、個人ですけど。嫌なのは」
私の一言に、アリオスはこの世の終わりのような顔で私を見上げた。
なんかその顔を見たら、ちょっと・・・というか、罪悪感が沸いてくるんだけど・・・
絆されてはまずいと、私は芽生え始めた気持ちを追い払うかのように頭を振った。
だってまだ、彼の言ってる事を信用してないし。
そんな彼は一度、何かを考えるように下を向いたかと思うと、片膝をつき姿勢を正した。
そして私の手を取り、これまでに見たことのない『真面目』な顔を私に向けてきた。
「サクラ、改めて申し込みます。貴女が好きです。私と結婚してください」
その凛々しい顔にグラッとはくるけど・・・・・・
「・・・・・・お断りします」
アリオスが今までになく真剣に・・・これまでが軽すぎた様な気がするんだよね・・・求婚してきたから、私も真剣な顔で返した。
彼は一瞬、悲しそうに顔を歪めたけど、私の手を握ったまま立ち上がり憂いのある笑みを浮かべた。
「わかった。でも、俺は諦めないから」
あぁ・・その顔もグラッとくるわ・・・やばいっ!
でも、そうそう簡単に私の意思は揺るがない。
「・・・多分、私は変わらないと思うよ。私の望みは、この城を出て自立する事だもん」
「城を、出る?」
驚きに目を見開く王子に、私は初めて自分が思い描く未来予想図を簡単に語った。
「待って!じゃあ、サクラは俺じゃない男と結婚して家庭を築くってこと!?」
・・・・なんか一気に飛躍してるけど・・・・
「まぁ、将来的にはそうなる可能性もあるのかな?」
私がそう答えると、王子は正にこの世の終わりの様な顔をし、非常に残念な表情へと変化していった。どのように変わっていったかは・・・本人の人権を尊重し控えさせて頂きます。
そんな王子の様子を見かね助け舟を出したのはリズだった。
「サーラ様、恐らくその未来予想図は叶わないものと思われます」
「え?何で!?」
「先ほども言いましたでしょう?貴女の重要性を」
「・・・・・・はっ!そうだった!私、狙われてるんだった!」
私にとっては、忘れてしまいたい現実を突きつけられてしまう。
名前云々で騒いでたら、ついついうっかり忘れてたわ・・・・
そんな私を、こいつ馬鹿じゃないの?ってな目で見るリズ。えぇえぇ、危機感なくてすみませんね!
「サーラ様は顔だけではなく、そのオツムも真っ平らで機能していないのですね」
厭味ったらしい溜息と一緒に呟かれた一言に、悔しいけどぐうの音も出ない。
思わず地団駄を踏み、リズを睨み付けた。
「兎に角、町で働くことはできません。貴女がどうしても早死にしたいというのであれば、止めはしませんが」
「うぐっ・・・・」
痛いとこを突かれ口を噤む私とは反対に、アリオスはいつにもましてキラキラを倍増させながらリズに尊敬のまなざしを向けていた。
次第に遠のいていく自立への道。
項垂れる私にリズは「別に自立への道は一つではないでしょう」と、呆れ顔を前面に出しながらも、相変わらず馬鹿な子を見るような眼で私を見る。
その視線が本当に、色んな意味で悲しい・・・リズの言う事が正論であればあるほどにね。
確かに道は一つではない。この城内での下働きとか、色々仕事はあるはずだ。だから・・・・ほかの道が結婚とか、言わないよね?
「取り敢えず、働くのは城内にしていただきます。王子の世話係という事で。で、個人的にはお友達から始めてください」
「え?世話係!?下働きじゃなくて?」
「お友達?恋人じゃなくて!?」
私と王子がそれぞれの反応を返す中、リズは本当に面倒くさそうに私らを睥睨するように、見た。
背後にはブリザードが見えた気がしたのは・・・多分、幻ではないと思う。
だって、確実に室内の温度が下がったものっ!
「私にしてみれば二人の関係なんてどーでもいいんですよ。面倒くさい。ただ、私を含め国民が戦争に巻き込まれ大変な思いをするのが嫌なのです。わかりました?!」
リズさん、いつも以上に怖いんですけど・・・
そんな思いを飲み込み、有無を言わせぬ言葉の強さと冷たい眼差しに、私たちはただただ頷くしかない。
「だったらいつまでもグダグダ我侭言わない。王子は国の為に働きなさい。サーラ様も働きたいのであれば、ただの穀潰しになり果てる前に己の存在価値を示しなさい!」
「「はいっ!!」」
私たち二人は背筋を伸ばし、勢いよく返事を返した。
誰が偉い人なのか、わからないくらい混沌としてきた・・・
だけれど私の本能が告げる。リズには逆らっちゃいけないよ・・・と。
そんなこんなで、全てリズが仕切り収めてしまった。
あれだけ悩んでいた私は一体、何だったのか・・・と思ってしまうけど。
でも、彼が私の力を目的に求婚してきたのではない事が分かっただけでも、私は嬉しかった。
この関係がこれからどう進むのかはわからないけれど、取り敢えずお友達から始める事にした私とアリオス。
私の望まない方向へと進まない事を祈りつつ、今までの延長線上とはいえ、自分の居場所を確保できた事にほっと胸を撫で下ろした。
そして、それから数日後だった。
実は、リズはリゾレットという名のアリオスの腹違いの妹で、この国の最強の一人と謳われるほどの魔法使いであるという事を知ったのは・・・