Destinyー運命の人ー



数時間が経過した。


私の涙はやっと治ったけど、まぶたは真っ赤だ。


「泣き止んだようだな。
よしっ、今日はこの俺特製のホットケーキを作ってやる!期待して待ってろよ!!もちろん、生クリームたっぷりのせてやるからな。」



秋人はそう言ってニカッと笑う。



私を元気付けるためだろうか?そんな心遣いがとても嬉しい。



「うん、期待して待ってる。」


私はくしゃっと笑って見せた。


学校休んでまで何やってるんだろうって思ったりするけど、それでも秋人と過ごす時間は好きだった。






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「アヤメちゃん、今日学校来てないんだ…
制服、渡せないなぁ。
花園家なら知ってるし、届けに行くか…」



母さんがいないときに行かないと…ね。



今夜はお姉さんとの約束もあるし、学校終わってすぐに行けばいっか。



というか、アヤメちゃん昨日の雨で風邪でもひいたのかな??



俺が傘使えって言ったのに……馬鹿な女。



Tシャツは別に何枚もあるからどうでもいいけど。



早くアヤメちゃんに会いたいなぁ


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そしてホットケーキが出来上がった。


「うわぁいい匂い!
生クリームもたっぷりだし、チョコレートもフルーツもいっぱい!なにより可愛い!!
秋人、腕上げた??」


「まぁな、スイーツ大好きなお嬢に仕えてるから」



私は早速フォークとナイフを手にもつ。




「いただきま〜す!」



パクッと大きく口を開いて頬張る。



「おいふぃ〜ほくほくひてふぅ〜(おいしぃ〜ほくほくしてるぅ〜)」



「飲み込んでから喋れよ…」



秋人は呆れつつも笑っている。



「だって、すっごく美味しいんだもの。
秋人も食べてみなさいよ!ほら」



私は切ったホットケーキをフォークで刺し、秋人に差し出す。



「…自分で作ったもんを美味しいからって食べる気はないが、お嬢がそんなに言うなら」



秋人は私の持っているフォークへ口を近づける。



「…あ〜んは言ってくれねぇの?」



すんでの所で秋人は上目遣いで、私を見る。




「えっ!そ、それは…」



フォークごと渡すつもりだったのに、このまま食べるなんて思ってないんだもの!


それに、こんなことをなんで自分の執事にしないといけないの。



なんて、また私の謎のプライドが…



秋人が私のために作ってくれたんだものね。



たまには、いいかな…?



「あ、あ〜ん。」


秋人は満足そうに笑って食べる。



「…うん、美味いな。」



「でしょ〜」


「なんでお前がドヤるんだよ。」



「ふふっ、私の自慢の執事が作ったんだもの。自慢しないと!」



今日ぐらい、秋人を甘やかそう、たまには褒めよう。



感謝の気持ちを…少しでも……



たまには素直に伝えないと。



「なっ、自慢の執事って…」


秋人はカァっと頬を染める。


「照れたの?」



私が疑問に思って尋ねると、秋人「照れてねーよバァカ!」と言ってフォークを奪い取る。



「今度は俺がお嬢に食わせてやるよ、ほら口開けろ!あーん。」



「べ、別にいらないわよ!自分で食べるわ。」



私は口を開かない。



こんな恥ずかしいこと、できない。



自分が差し出すので精一杯だ。



「自慢の執事が作ったホットケーキを自慢の執事が食べさせてくれるんだぞ?
そんな機会そうそうねぇよなァ?」



秋人はそう言ってニヤリと笑う。



やっぱり素直に言うんじゃなかったわ…



「……仕方ないわね。」



私はゆっくりとフォークに近づきパクッと食べる。



なんか、こーゆーのって恋人…みたい。



って私ってば何考えてるのかしら!



相手はあの秋人よ?!



ないない、秋人とかない、100%ないわ!



まぁ確かにたまーに、極々たまーにカッコイイとか?思う時はあるけど……無いわ!



私は綾斗君一筋!そう、ひとす……



どうしよう、せっかく元気になったのに、また昨日のことを……



ううん、引きずってられない!



綾斗君の事は忘れよう!



昨日は何も無かった!



これでよし。



「お〜い、お嬢?
何ぼーっとしてんだよ。」



「えっ!?あっ、ごめん考え事…」



「…綾斗のことか?」



秋人は急に静かに問いかける。



「……。」


なんとも言えなくて、つい黙り込でしまう。



「まだ、好きなのか?忘れられないのか?」



私は……どうなのだろうか。



分からない。



私の綾斗君へのこの感情が好きなのか…



「わからない。」



ずっと探し続けていた人。



それが、、、



その人が、、、



女の人を家に連れ込んだりしてるような人だったなんて思いもしなかった。



「わからないけど、忘れることにする。
そうでもしないと一悩んじゃいそうだしね!」



私は秋人を心配させないように、自分に言い聞かせるように、そう言った。




私がそう言うと秋人は少しほっとしたように「そうか」といった。



そして再び他愛もない話をして過ごした。












「もう、夕方ね…
あっという間だわ。」



私はふと窓の外に目を向ける。



空はもうオレンジ色に染まっていた。



綺麗な夕陽が出ている。



「ほんとにな。
明日学校行くのめんどくせぇー。
またサボるか?なんてな」



「もう!何言ってるのよ。
勉強についていけなくなるじゃない。」



なんて言って2人で笑う。



確か今日はお母様の帰りは遅かったっけ?



晩ご飯は…どうしよう。


秋人に散々作ってもらったのだから、晩ご飯まで作らせるわけにはいかない。



そんなことを考えているとベルが鳴った。



秋人は洗い物をしている。



「私が出てくるわ。
秋人は洗い物続けてて!」



私はそう言って玄関へ向かった。




「ちょっ、お嬢!?」



「はい。」



私はガチャリと扉を開ける。



「あっ、アヤメちゃん!
はいこれ、制服。」



「あ、絢斗…君…」



予想外の人物に立ち尽くしてしまう。



「ど、どうしてここが…?」



「言ったじゃん、花園家は有名だって。」



あっ、そ、そうか……



「ほら、制服。
ちゃんと洗ってあるし乾いてるよ?」



そう言って袋に入った制服を差し出す。



「わ、わざわざありがとうね。」



「いいよ。ところで今日欠席してたけど大丈夫?風邪でもひいちゃった?」



「えっ、あっ、うん、ちょっとね…
ごめんね。」



「アヤメちゃんが謝ることじゃないよ。
俺が傘渡してたらよかったんだから。」



「う、うん…」



どうしよう、早くこの扉を閉めたい。



「いやーでも本当にすごいね、花園家は。
広くておっきい!」



「そ、そんなことは…」



どうしよう……



「明日は学校これる?」



「えっ、あ、うん、たぶん。」



「ならよかった。
早く会いたかったんだ。
今会いに来ちゃったんだけどね〜」



「あ、あはは…」



私は苦笑いを浮かべる。



忘れようって決めたのに、こんな態度じゃいけない。



「わざわざ届けに来てくれてありがとうね。
暗くなるといけないし、早く帰りなよ。」



…って、これじゃあ追い返してるみたいじゃないの。



でも、実際そうだし?お姉さん、今日絢斗君のとこ行くって言ってたし?



って忘れてないじゃない私!!



あぁーもう!



「そうだね、それじゃあ俺はここでお暇しようかな。」



「また明日ね。」



私はそう言って絢斗君を見送った。




















「…あなたっ!どうしてここに…」



「あれ、母さんじゃん。
帰ってきてたんだ。」



「それより、何しにきたの…」



「別に。」



「待ちなさいっ!!」


誰が待つか。


俺のことを捨てておいて…



ふざけるな。



俺は…どうせいらない子なんだよ。



浮気相手との間に産まれた…いらない子。



花園家の妻が浮気なんてこと、広まったら終わりだもんな。



広めてやろうと思ったが、どうせ誰もそんなこと信じてくれない。



だったら………










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