きっともう恋じゃない。


恋よりもいまは将来を考えるべきだと思う。

後者を蔑ろにして転けてしまえば、わたしはきっと恋に現を抜かしたことを後悔する。


部屋の照明もデスクランプもつけず、パソコンの明かりと向き合っているとヘッドホンの向こうから話し声が聞こえた気がした。

きりのいいところで再生を止めてヘッドホンを外すと、背後から乱暴にドアノブを捻る音が響く。


「おい、薫。壊れるって」

「だってこいつ絶対に寝てねえもん。引き篭りは許さん」

「お母さんかおまえは」


どうしてこの二人はわたしを放っておかないのかな。

怒りながらも本気でぶつけようとはしない薫も、何を考えているのかわからないまおちゃんも、本当は少し期待をしていた自分も、ぜんぶが綯い交ぜになっていく。


向こう側に音が届かないように慎重にドアの鍵を開けた。

ぎゃあぎゃあと騒ぐのに夢中でさっきまでドアを揺さぶっていた動きは止まっているみたいだ。


そろりと机に戻って動画の続きを流す。

ろくに集中もできず、ちらりと横目に後ろを見たとき、ちょうど勢いよくドアが開いた。


鍵が開いたことには気付いていなかったのか、滑るように部屋に転がってきた薫が呻き声をあげる。

その横にはまおちゃんがいて、ばっちりと目が合う。

< 11 / 73 >

この作品をシェア

pagetop