きっともう恋じゃない。
「電気」
「え?」
「つけろって何度も言ってるよな」
指先で弾くように照明のスイッチを押したまおちゃんがずけずけと部屋に踏み入る。
薫はさっと起き上がって一歩二歩下がると、ご丁寧にドアを閉めて出ていった。
ベッドのふちに腰かけたまおちゃんが、ほんの少し圧を放っている気がして、再開したばかりの動画を止める。
ヘッドホンも外せ、と言外に伝わってきて、背筋を伸ばしまおちゃんに向き直る。
「なんか食べたの」
「えと、春巻きなら食べたよ」
「春巻きって」
持っていた袋からチョコレートのパッケージと紅茶のペットボトルを取り出しながら、まおちゃんは呆れ混じりに笑った。
渡されたミルクチョコレートとストレートティーはわたしの好みをばっちり押さえたもの。
チョコレートの粒を口に放り込んで、結局何を食べたのかとわたしも問うてみたら、思っていた通りラーメンと返された。
「和華はなに観てんの、洋画好きだったっけ」
「これ? アメリカのラブコメ映画。ホラーとかアクションが少ないのなら大丈夫だから」
「変わってるよな。薫のゾンビゲームとか銃撃戦、最近なら斬り合いだっけ。そんなのは平気なのに」
「なんでだろ。生身の人じゃなきゃ平気なんだよね」
実写でよくあるホラー特集は目で観るのも耳で聴くのも無理だけど、昔からゲームなら平気だった。
操作はてんで駄目なのに、誘われるまま薫のプレイばかり観てきたからかもしれない。