きっともう恋じゃない。


もっとわたしが強かったら。

まおちゃんを好きでいたくないなんて、あの頃言葉にしなければ。


たらればと考えて、深みにはまって、過去に思いを馳せるたびに苦しくなることもある。

きっとこれから先も消えない痛みだ。

まおちゃんを傷付けたわたし、まおちゃんに傷付けられたわたし。

ぜんぶを愛おしく思える日なんてこない。

古い傷跡に触れて、口付けるたびに胸は痛むだろう、それでも。


となりにいるのは、まおちゃんがいい。

幼馴染みでも友だちでもなく、理由がなくてもできることが増える関係になりたい。


「よろしくおねがいします」


かしこまって頭を下げると、額同士が掠れて骨のぶつかる音が聞こえた。

痛いなってまおちゃんが笑って、痛いねって返す前に腕のなかに閉じ込められる。


「まおちゃん」


まだ不安になる心を上手に宥めることのできないわたしはまおちゃんに縋るしかなくて。

これでずっと一緒にいられるんだよね、と束縛っぽい、ちょっと重い台詞を吐く。


「和華さ、それやめない?」

「それ?」


ちょっと重いつもりの発言はまおちゃんにとってはどっしりと重かったのかもしれない。

不安がるのをやめるのは無理だ。だけどまおちゃんに伝えずに飲み込めってことなのかな。

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