きっともう恋じゃない。
「まおちゃんって。やめよう」
「え……名前のこと?」
「今の流れでそれ以外に何があった?」
本気で気にしていないのか、気付いてさえいないのか、まおちゃんはわたしの肩を摩りながら首を傾げる。
もしかして、と思い当たるのは、まおちゃんにとってはこれからずっと一緒にいることは決定事項なのかもしれない。勘違いだったら恥ずかしいけど、もしそうなら嬉しい。
本人が疑問に思わなければ、そういうことって案外気付かないものだったりする。
相手が、わたしが、長年悩んできたことであったとしても。
「たまに眞央って呼んでくれてたよな」
「それは……ブラックまおちゃんのときと真面目な話のとき限定っていうか」
「なに、ブラックって」
「ちょっとこわいときのまおちゃん」
主にわたしが怒らせたときに出てくる、いつもとちがう目をするまおちゃんのこと。
声が届いているのかわからなくて、強引で、それこそ無理やりにくちびるを奪ってきたときのことを思い出してつい視線がまおちゃんのくちびるに向いてしまう。
「ちゅ、キッ……あの、口付けされたときとか、こわかったよ」
「ちゅーって言うの恥ずかしい? かわいい」
「なんでわかるの……!」
ちゅーもキスも口に出そうとすると顔から火を吹きそうになる。
ぎゅうっと一層拘束の強くなったまおちゃんの腕のなかで、あの日のまおちゃんを思い出す。
はじめてだったのに、逃げようとすると追いかけて、大人しくしていると深くなる。
まだ想いがすれ違っていたときの口付けはあんまり強引で、息の仕方も応え方もわからないわたしを引っ張っていくような勢いばかりのものだった。
それさえ、今では優しさも含まれていたよねと思えてしまうのだから、ずいぶんとまおちゃんに絆されている。