きっともう恋じゃない。
あんまり長引かせて引き留めるのは申し訳ない。
ちろ、と視線を向けても涼しい顔の篠田さんにしか聞けないことをたずねる。
「まおちゃんの進路のこと、なんですけど」
「進路ぉ?」
「はい。なにか聞いてないかなって」
「いやいや、あいつが俺に相談するようなタマじゃないって知ってるだろ。先輩をパシリに使うような奴だよ。知ってるでしょ」
それはもちろん、使い走りの先はわたしだった過去があるから知っている。
篠田さんは浮ついた空気を纏っていて、言ってしまうとチャラい人だ。
まおちゃんがちょっと舐めてかかっていることも、普段は目を瞑っているけどちゃんと気付いてる。
「なんでもいいんです。わたし、まおちゃんが理系か文系なのかも知らないし、本当になにもわからなくて」
「あのさ、なんでそれを俺に聞くの」
「学校でのまおちゃんをちょっとでも知ってる人だから、です」
ブラックで飲んでいたコーヒーに今更ミルクを投入し、ひと息に飲み干した篠田さんの目がこわい。
人を怒鳴りつけたりする性分ではないのだろうけど、まおちゃんと同様に静かに怒るタイプだ。
「まず、俺が須藤を知ってるのは陽日経由みたいなもんだし、個人で関わりはないわけ。連絡先は一応登録してるけど、電話もメールもここ一年してないし」
頼みの綱が千切れていくような気分。
「進路なんて知りようがないし、俺には皆目見当もつかない」
きっぱりと言い切られてしまえばこれ以上は食いさがれない。
店内のBGMが埋めてくれる沈黙はずっしりと重く、息が詰まりそうだった。