きっともう恋じゃない。
枠に収まらない新見くんが筆頭だったせいで、この話を振ったことを早々に後悔していたとき、矢澤くんが口を開いた。
「俺は正直不安しかない。だから登校日じゃなくても自習室に来るようにしてる。他人に積極的になるのは、もう性格上難しいかもしれないけど、ただそこにいることくらいはできるように」
矢澤くんとわたしはたぶん似てる。
ちがうのは、何か手を打っているかいないか。何かをしているか、していないか。
能動的な振る舞いだって、きっとこれから必要になることだろうから。
「で? 三宅さんはなんで就職?」
「なんとなく」
口ではそう言うけど、三宅さんはなんとなくって顔じゃなかった。
かといって迷うような素振りも見せない。
確固たる理由の芯が、就職に振り切れているような目をしていた。
時間が差し迫ってきて、急いでプリントに記入をする。
進学、就職についてそれぞれの観点と意見、それから将来について。
最後はグループでの結論を記入するようになっていて、ほぼ同時に四人で顔を上げた。
「つまりさあ、こういうことだよな」
ガリガリと机ごと引っ掻くような強い筆圧で書いたプリントを新見くんが真ん中に置く。
三人でそれを覗き込むと、斜めに走った決して丁寧とは言えない文字でこう書かれていた。
「まだ何者でもない俺たちは、何にだってなれる……」
これじゃないって思うのに、これ以外にないって思う自分がいた。
矢澤くんが何も言わずに同じ文言を書き始めたところで、誰も何も言わないまま満場一致ということになった。
無責任と、誰にも責任がないことの意味はちがうけど、『何にだってなれる』は後者でしかないから。
何にだってなれるわたし達は、何かにならなきゃいけない。
何一つ心のわだかまりは解消していないのに、すとんと落ちるものがそこにはあった。