きっともう恋じゃない。
色のない恋
◇
「あ? 誰これ」
拍子抜けなことに、新見くんからは一切音沙汰がなかった。
スクーリング最終日の晩なんて、いつ連絡が来るかとずっと身構えていたのに。
明後日から試験という時になって、やっと初めての連絡が来た。
よりによって、薫が携帯を持っているタイミングで。
「にーみいぶき? 知らねえ。姉ちゃんこれ誰だよ」
「学校の知り合い……知り合い?」
「いや、自分のことじゃん。知り合いったってこれ、おかしいだろ」
床を這いずってわたしの脇まで来ると、薫は携帯の画面を突きつけてきた。
近過ぎて見えない文字を遠ざけて、届いたメッセージを目で追いかけた瞬間、持っていたペンを落とす。
「はあ!?」
「声でっか。なにこれ、久野ちゃんの声聞きたい〜〜〜って」
「わ、わたしが聞きたいよ!」
「え、こいつの声を?」
「そんなわけないでしょ」
かおるを見なくてもわかる。
絶対に面白いものを見つけたって顔をしてるんだ。
「まおちゃんには言わないで、ね」
「やましいことがあんの」
「そんなのない。ないけど……」
まおちゃんに何か言われることが怖いんじゃない。
何も言われないかもしれないことがこわい。
こんなこと、今まで一度もなかった。
まおちゃんには知られたくない、お願い、と頼み込むと、ここまでわたしが言うとは思っていなかったのか、薫はくちびるを尖らせた。
「そんなん言うなら消せばいいじゃん」
「だって、明後日には顔合わせるし、後期の授業だって同じだもん」
「卒業するまで隠せるん? それまで無視すんの?」
隠し事を共有させる心苦しさを謝ると、そうじゃないだろって薫が怒り出す。
まおちゃんとのことでも散々薫を巻き込んできた。
また面倒を抱え込んで、と呆れられることも覚悟していたけど、怒られても今はどちらとも言えない。
「姉ちゃんのそういうとこだよ」
なにが、とは言わなかったけど、続く言葉はわかってる。
わたしのこういうところが、薫は嫌いなんだって。