きっともう恋じゃない。
二日間の試験を乗り越えれば、控えるのは夏休み。
一般的な高校と同じく八月に長期休みを挟むのだけど、普段に輪をかけて山のような課題が出されることを考えると、善し悪しの天秤は片寄ってしまう。
くわえて今年は、受験生の夏、を如実に意識せざるを得ない季節。
試験の翌々日、成績表を受け取りに来たとき、先生はそれだけで解放してはくれなかった。
「どこか見に行く予定は立てたのか?」
「予定……はまだです」
「事前申し込み無しで参加できるところも多いから、これ資料、持って帰れ」
いくつかの冊子とチラシをファイルに入れて渡される。
付箋には『久野』と書かれていて、わたしのために用意していてくれたものだった。
まあ座れ、と促されて、渋々先生の正面に座る。
テーブルを挟んで向かいにいる先生は上背があり大柄で、目付きが鋭い。
嗄れ声は少し張るだけでも凄みが増す。
一年生の頃から担任として接しているけど、どうにも苦手意識が消えない。
「久野は、成績は悪くないんだよな。多少ムラっけはあるけど、今回なんか特に良かったろ」
とにかく早く帰りたくて、開かないまま仕舞った成績表を取り出そうとするよりも早く、先生の手元にあった分をテーブルに広げられた。
平均点を優に越す点数に思わず笑みをこぼす。
「ここに通っている分には久野に心配するところはないんだけどな。レポートの評価もいいし、課題も完璧にこなしてる」
その眼光に射竦められたら逃れられない気がして、顔を俯ける。
決して責められているわけではなく、褒められているのに、返事すらまともにできなかった。