きっともう恋じゃない。
「大学でも専門でも、見に行くのは強制じゃない。こんな紙切れで事足りて、ここって決められるならそれでいい。でもおまえ、迷ってるんだろ」
「なんで……」
「進路希望調査。第一志望に大学と専門両方書いて以外空白だったらそりゃあ、気にも留める」
あ、と思い出したのは四月の進路希望調査。
迷いに迷って、本当にそれ以外が浮かばなくて提出したのだった。
面談希望にバツを書いたから特に進言もなく、忘れていたけど。
シワ寄せというか、そのときは見逃してもらえたものをここに来てはっきりさせておこうって魂胆がようやく透けて見えて身体を強ばらせると、先生は困ったように笑った。
「三年もいてここまで警戒心が解けないのも珍しいな」
「警戒してるんじゃなくて、先生がちょっと怖いから」
「いや、おい。それは卒業するまで秘めとけよ」
さりげなく、空気を解すのが上手な先生だ。
それは入学式のあとのアイスブレイクで、端っこに避けていたわたしのそばにいつの間にか立っていたときから、わかっていた。
「先生はどっちが向いてると思いますか」
「専門だな。雰囲気はここと大差ない。コミュニケーションの必要が今より増えるのはどっちにしろだし、久野のマメな性格からしたら学びたいこと一本の方が向いてるんじゃないか」
「じゃあ……」
「ちょっと待て。そもそも全く別の分野で迷ってるんだから向き不向きで判断するな。早まるな」
「でも、わたしも大学は厳しいって、自分でちゃんとわかってます」
語学は学べば武器になる。磨けば鋭利になる。
情報処理も然り。
そのふたつのうち、より手に馴染むのは、きっと後者だと思う。
触れてみたいと思うのは、今はまだ甲乙付け難いけど。
大人になれば、何をやりたいかではなくて、何ができるのかを示さないといけない。
語学はきっと、知りたいことの域を超えない。
やりたいことのその先に行けるものは、自分のなかでもう決まっていた。