きっともう恋じゃない。


わたしがバテモンを入れているからだとか、そういうめちゃくちゃな言い分なら、突っぱねられたのかもしれない。

そんな淡い期待を裏切るように、新見くんは指折りながら挙げていく。


「字が綺麗なところ。背筋を曲げないところ。板書が多くても先生が話してるときは絶対に手を止めるところ。三宅さんと話してるときは楽しそうなところ。あと、久野ちゃんは覚えてないって言ってたけど、前のスクーリングのときにさ……」


四本折った指を伸ばして、手のひらに視線を落とす。

去年のことをいきなり持ち出されて戸惑っていると、新見くんはわずかに声のトーンを低くした。


「にこって、笑ってくれたじゃん」

「は……?」

「だから、そのときの久野ちゃんがすげーかわいくて。この前もちょっと口に出てたけど、可愛くて、好きなんだよ」

「かわ……そんなこと?」

「そんなことじゃねえよ! 何かにじゃなくて、自分に笑ってくれるって、そんなん、好きになるだろ」


耳まで赤くして足をバタつかせる新見くんをどういう目で見ればいいのかわからない。

とにかくスクーリングが嫌で嫌でたまらなくて、きっと愛想笑いだったのだろうけど、誰かに笑いかけた記憶は微塵もない。

同じグループだったと言われて思い出そうとしてみても、顔すら浮かばなかったのだからそんな一コマを覚えているわけもなかった。


「本気で。好きなんだけど」

「ちょっと、やめて」

「メッセージスルーしないで。外で会いたいとか、思うけど言わないから、学校に来るときは話したい」


しれっと攫われた手を取られて、今更メッセージを無視したことを指摘されてしまえば、ぐっと飲み込むしかなくて。

嫌だと言えば聞こえてはいるのか、つかまれた手から逃れようとすると簡単に逃してくれた。

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