きっともう恋じゃない。


この強引さが誰かに似ているような気がして、その誰かがひとりしか浮かばなくて。

まおちゃんが頭にいっぱいになれば、ちがう誰かにこうして迫られているのが途端に情けなくなってしまう。

震えそうになるくちびるを噛めば、ハッとしたように新見くんがわたしとの距離を置く。


「俺、惚れっぽいってたぶん噂になってるけど。本気だから。本気で、久野さんのこと好きだから」


噂というと、三宅さんの言っていた、いい噂を聞かないってことと繋がりがあるのかな。

本人が噂になっていると気付くほどのことが過去にあったのか、それすら学内の情報に疎くて心当たりがない。


また連絡する、と残して階段を下りていった新見くんの後に続かず、ぼうっとしていると携帯が震えた。

まさかこんなに早く連絡を寄越したのかと思ったけど、メッセージではなく着信であることに気付いて通話に繋ぐ。


『もしもし? まだかかりそうか? って、話し中なら電話は出られないよな』

「いやいや、お父さん。電話繋がってるからね」

『あれ、本当だ。話し中じゃなかったか?』

「もう終わったよ」

『そうか。まだかかるならコンビニじゃなくて近くのパーキングに移動しようと思ったんだけど、ここでいいな』

「うん。ちょっと待ってて」


今日はお母さんではなくてお父さんが近くまで送ってくれた。

歩いていくって言ったのだけど、暑いからダメだと聞いてくれなかった。


建物を出て近くのコンビニに向かうとお父さんのスポーツカーはすぐに見つかった。

車高が低いと乗りにくいだとかぶつくさ言って、薫はお母さんの車の方が好きだけど、わたしはお父さんの車の方が好きだったりする。

助手席に乗り込むと何故かアメリカンドッグの包みを渡された。


「なんで?」

「この前薫が食べてたから、久しぶりに買ってみた」


また薫。

お父さんといるときにも強請っていたらしい。

まだあたたかいアメリカンドッグを頬張りながら、お父さんに自慢すべく成績表を渡す。

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