きっともう恋じゃない。
ソファにうつ伏せていつの間にか眠っていたようで、肩を叩く弱い振動に目を覚ます。
顔を横向けて、薄暗い室内でぽやんと薄目を開けては閉じてを繰り返していると、肩に触れていたぬくもりが離れた。
かわりに、わたしの顔を覗き込む誰かの陰が落ちる。
「まおちゃん」
お母さんなら放っておいてくれるし、お父さんは触れずに電気をつける。
かおるはこんなに優しい手をしていない。
背中を引っ叩いて起こすことはあったとしても。
だから、消去法でまおちゃんに行き着いた。
輪郭が濃くなって、シルエットに色がつく。
まおちゃんだ。
夢じゃない、現実だってわかっているけど、まだ夢の中にいるフリをする。
まおちゃんの首に手を回して引き寄せると、大きな体躯はあっさりと倒れてきた。
「……すき」
聞きたいことは山ほどある。
さしあたっては、どうやって家に入ってきたのかを。
でもそんなのもうどうだって良かった。
聞きたいことよりも、伝えたいことの方がたくさんある。
「すきなの。もう、とまらないの」
「和華」
「ずっと、一緒にいたい」
耳元に響いた声は間違いなくまおちゃんの声。
まおちゃんが呼んでくれるわたしの名前が大好きだ。
宝物を呼ぶみたいに紡ぐから、わたしはわたしの名前を何度も好きになる。