きっともう恋じゃない。
「恋人のことが好きで、大切だから、新見くんの気持ちには応えられない」
そこに望みが一差しもないことを伝えることは、残酷なようで、その実いちばん誠実な向き合い方だと信じてる。
新見くんがわたしの言うことを笑って流すようなら、本当に今日で終わりにする。
新見くんは細かく頷きながら目を細めて口角を上げていった。
「あっそ」
声は冷たくて、素っ気ない。
だけど、強がりのような不貞腐れるような響きも含んでいた。
「べつに気にしてないし? 久野ちゃんなら男慣れしてなさそうだし押せば落ちる自信とかなかったし?」
「それは秘めていてほしかったかな」
「いやこれくらいは受け取るべきだな」
やっぱりそういう風に見られていたことに少なからずショックを受けながら、流されなくて良かったと心底思う。
「俺もうめっちゃ受験頑張ろう」
「う、うん? がんばれ?」
「そんで、久野ちゃんが大学にしとけばよかったって思うくらいめちゃくちゃ楽しい学生生活送る!」
予想外に可愛い仕返しに笑ってしまうと、新見くんは目を丸くして泣き笑いのような顔をする。
正直、どうして新見くんがわたしを好きになってくれたのかはピンと来ないままだけど。
そういう顔を見たことがある。わたしも誰かに見せたことがある。
伏せた顔を上げられずにいると、新見くんはわたしの頭にぽんっと手を置いて先に出ていった。