きっともう恋じゃない。


まおちゃんの家に行くなら、とコンビニで適当な飲み物とお菓子を見繕う。


三人が三人、微妙にちがう好みだから袋はパンパンになっていた。

最近薫がハマっているホットスナックもいくつか買ったせいで、それらが入った袋からもわもわと出てくる蒸気が熱い。


ちょうど別の階の人が降りてきたエレベーターに乗り込み、家の階で降りる。

一旦家に荷物を置こうとエレベーターを降りた瞬間、まだ開いていたドアにさっと誰かが乗り込んだ。


「えっ!?」

「姉ちゃん、グッドラック」

「は!?」


親指を立てて眉毛をきりっとさせた薫がフレームアウトしていく。

慌てて階数ボタンを押すけど下り始めたエレベーターは止まらない。


「嘘でしょ……」


かおるが乗ったエレベーターではないもうひとつの箱のドアが開くけど、追いかけたところで戻れと言われるのがオチな気がする。

両手に抱えた袋を離さないようにしながらも肩を落とすと、真後ろでコホンと咳払いが聞こえた。


「まおちゃん……」

「は?」

「……え? あ、眞央」


気を抜くとすぐにまおちゃんと呼んでしまう。

心のなかでも『眞央』って呼ぶ癖をつけるようにした方がいいのかな。

まおちゃんの『眞央』の部分を呼び覚ましてしまいそうで、本当はあんまり呼びたくないのだけど、今はそんな心配もいらなそうだ。


だって、名前で呼び直してもまおちゃんは変わらずに不機嫌そうな顔をしてる。

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