きっともう恋じゃない。


「眞央に無理をさせてるなら、付き合うのはやめた方がいいと思う」


嫌だ嫌だと泣きたくなる気持ちの方が大きい。

だけど、嫉妬も寂しさも苦しみも、眞央への想いに敵わない。

昨日のが眞央の本心なら、今日が最後になってもいいとさえ思っていた。


ただ、たぶんかおるのあの言い方から察するに、言葉を額面通りに受け取るのはちがうんだろうから。

必死に、眞央の心にたどり着くための何かを探す。


「中学のときのこと、まだ気にしてるの?」


決定的ではない、曖昧なそれを指してみたら、眞央は簡単に揺れた。

肩がびくりと強ばって、爪の短い指先がわたしの足を搔く。


「もう平気だよ。痛くないし、思い出すことはたまにあるけど、今じゃなくて過去だから」


記憶も傷も、薄れたって消えてはくれない。

平気だとは言ったけど、この小さな町で外を出歩けば同級生とすれ違うことはたまにあって、その度に物陰に隠れてしまう。


いじめられていた頃、守れなかった心をずっと膿んだまま抱えてきた。

だけど由麻ちゃんが、あの頃いちばんに守られないといけなかったのはわたしの心だと言ってくれたから、それでもう傷ではなく傷跡にできた。


眞央にも同じように心に傷がついていて、それはまだ誰にも救われていないのだと思う。

痛みがずっと、そこにあるのなら、わたしには何ができるだろう。

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