貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
蔡家の一人娘だという事で、幼いころからすでにいくつもの縁談が来ていた。だが、紅華の父は、そのどれにも頷くことはなかった。彼は、最初から紅華を後宮に入れるつもりだったのだろう。だから、婚姻が許可される十六歳になってすぐに後宮入りが決まったのだ。
国と汀州の思惑が見事一致して、晴れて紅華は妃となるというわけだ。
「はあ……もういいや、どうでも」
しばらくして立ち上がった紅華は、ぱたぱたとほこりを払うとしょんぼりと自分の部屋に戻った。
☆
その日はあっという間にやってきた。
紅華は、新品の馬車に揺られながらぼんやりと暮れていく外の風景を眺めていた。
紅華が着ているのは、金糸銀糸の刺繍が豪華に施された緋色の婚礼衣装だ。この日のために特別に仕上げてもらった逸品で、紅華はこの服にずっと憧れていた。これを着る時は、弾んだ心持ちで愛する人のもとへ向かうものだと思っていたのに。
思い出すと、また腹が立ってきた。
李欄悠に初めて会ったのは、一年ほど前にたまたま出かけた茶会だった。偶然話しかけられて、二人はすぐに意気投合した。李家は最も古い家柄の貴族の一つだったが、欄悠は他の貴族のように家柄を自慢したり威張り散らしたりもしなかった。本物の矜持を持った貴族だと、紅華は尊敬すら覚えていた。彼がいくつか来ていた縁談の相手の一人だと知った時には、運命だと思った。
国と汀州の思惑が見事一致して、晴れて紅華は妃となるというわけだ。
「はあ……もういいや、どうでも」
しばらくして立ち上がった紅華は、ぱたぱたとほこりを払うとしょんぼりと自分の部屋に戻った。
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その日はあっという間にやってきた。
紅華は、新品の馬車に揺られながらぼんやりと暮れていく外の風景を眺めていた。
紅華が着ているのは、金糸銀糸の刺繍が豪華に施された緋色の婚礼衣装だ。この日のために特別に仕上げてもらった逸品で、紅華はこの服にずっと憧れていた。これを着る時は、弾んだ心持ちで愛する人のもとへ向かうものだと思っていたのに。
思い出すと、また腹が立ってきた。
李欄悠に初めて会ったのは、一年ほど前にたまたま出かけた茶会だった。偶然話しかけられて、二人はすぐに意気投合した。李家は最も古い家柄の貴族の一つだったが、欄悠は他の貴族のように家柄を自慢したり威張り散らしたりもしなかった。本物の矜持を持った貴族だと、紅華は尊敬すら覚えていた。彼がいくつか来ていた縁談の相手の一人だと知った時には、運命だと思った。