貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
 しょっちゅう後宮に顔を出していたのも、本当は睡蓮に会いたかったからに違いない。

(何よ。晴明様のためだけに生きてるみたいなこと言って……ちゃっかりと、愛する人がいるんじゃない)

 刹那的に生きていると思った天明にも、ちゃんと自分の幸せがあったのだ。それは喜ぶべきことのはずなのに、今の紅華は無性に腹だたしくてたまらない。
 その理由も、本当はおぼろげながらわかっている。だが気づかないふりをしてきたそれは、貴妃となる紅華が認めてはいけない気持ちだ。

 紅華の胸が、ぎゅっと締め付けられたように痛む。

(だめっ!)

「天明の、ばかばかばかばか!!!」

 その気持ちを振り払うように誰へともなく怒鳴り散らすと、紅華は勢いよく立ち上がった。

「もう知らない!」

 その瞬間、背後から口をふさがれた。

(っ?!)

 次いで布を巻かれて目を塞がれると、あっという間に紅華は誰かに抱え上げられてしまった。もがこうとした紅華の耳に、くぐもった声が聞こえる。

「命が惜しければ、おとなしくしていろ」

 言葉の主も口元に布を巻いているらしい。そのままどこかへと運ばれていく。

(なんで?! ここ、後宮よ?! 誰か……助けて!)

 なすすべもなく、紅華はさらわれてしまった。
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