貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
「あの子を、愛してくれてありがとう、紅華様」

 紅華はありがたく椅子にすわると、おだやかな義母の顔を見返す。

「あの子はね、幼いころから、父である皇帝陛下を尊敬して、いつか自分も陛下のように国民のために働くんだ、と事あるごとに口にしておりましたの」

「天明様が、ですか?」


 のらりくらりと生きていた天明にそんな時期があったとは、にわかには紅華は信じられない。

「ええ。天明が変わってしまったのは、自分が本当はいない子だと知った時……あの離れの宮で一生を終えなければならないと知った時です。絶望に落ちた天明に自分と入れ替わるいたずらを言い出したのは晴明でした。自分のふりをすれば宮から出ることもできる、と。
 長じるにつれて度々命の危険を感じた晴明は、もう自分のふりはやめろと天明に何度も言ったのですが、むしろ天明はすすんで晴明の影武者を引き受けるようになりました。時には、囮になるような危険な真似まで……優しいあの子がどんな思いでそんなことをするのか。その気持ちは痛いほどにわかりました」
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