貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
第二章 一人だけの後宮
 後宮は閑散としていた。

 ほんの数日前までは、華やかな衣装を身に着けた何人もの妃や世話をする侍女たちで溢れかえっていた場所だ。時の皇帝のためだけの、女性のみが生活をする場所。

 だが今この後宮にいる妃は紅華一人だけ。

 笑いさざめく声も、にぎやかな楽の音も聞こえない。綺麗に磨かれた玉造りの廊下を、ときおり女官や侍女が軽い衣擦れの音をさせて通っていくだけだ。


「静かね」

 窓から明るい庭を見ながら、紅華が言った。

「そうですね。もし楽がお好みでしたら、楽士を手配いたしましょうか?」

 紅華の前に、ことりと睡蓮がお茶を置く。爽やかな青い香りが広がった。

「ううん、そういう意味じゃなくて……たった数日でここまできれいにすっきりしちゃうのって、すごいと思ったのよ」

 紅華の住まう翡翠宮は、壁紙や窓の引幕も新しくされ、蔡家から持参した調度品が揃えられている。部屋の中に漂う上品な香の中には、新品の布の匂いがかすかに混ざっていた。


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